5ヵ年の事業計画を策定、月1回の「作戦会議」で経営課題を相談【支援者とともに】
よろず支援拠点は、国が全国45都道府県に設置した無料の経営相談所です。よろず支援拠点では、売上を伸ばしたい、販路を拡大したい、新商品を開発したい、後継者がいないなど、中小企業・個人事業主の方が抱える様々な経営課題に、コーディネーターがアドバイスしています。また相談内容に応じて、専門家の派遣や支援機関の紹介も行っています。
北海道よろず支援拠点は、札幌本部の他、道内6か所(函館・帯広・釧路・旭川・北見・室蘭)に支部が設置されています。
今回の事例では、創業間もない企業が、よろず支援拠点のコーディーターの支援を受けながら、中長期の事業計画を策定。定期的な経営相談、伴走型支援を通じて、経営を軌道に乗せていった事例をご紹介します。
認定支援機関 |
北海道よろず支援拠点 |
---|---|
支援企業 | 株式会社 ベストアーク |
企業概要 | 人材コンサルタント、労働者派遣事業/職業紹介事業 |
所在地 | 北海道札幌市中央区北2条東1-3-3 |
WEBサイト | https://www.bestarc.jp/ |
よろず支援拠点の支援で、5か年の事業計画を策定
株式会社ベストアークは、2017年3月に、久末則子代表と目谷駿之介専務の2人で独立創業した札幌市の人材派遣会社である。観光・飲食・メーカーなど、様々な地域企業に人材を派遣し、2人の営業力を強みに売上を伸ばしてきた。しかし、創業当初は売上がなかなか伸びずに悩んでいたと言う。
「知名度不足から、とにかくスタッフ集めに苦労していました。派遣するスタッフがいなければ、仕事を受けることはできません。売上目標にはほど遠く、赤字が続いていました(久末社長)」
設立から半年ほどがそんな状態が続き、資金繰りへの不安から事業資金の借入を考えていたところ、社労士から「よろず支援拠点に相談したらどうか」とアドバイスされた。
よろず支援拠点とは、国が設置した無料の経営相談所のこと。北海道よろず支援拠点(札幌本部)は、あの有名な札幌市時計台の隣り、(公財)北海道中小企業総合支援センターのなかにある。
2017年8月、久末代表と目谷専務が二人でよろず支援拠点を訪れると、中野貴英チーフコーディーターが相談に応じた。
「話を聞いて、最も問題だと思ったのが、事業計画と呼べるものがなかったことです。借入金ゼロで創業したので、金融機関に事業計画書を提出する必要がなく、作らないままになっていました。(中野チーフ)」
金融機関から事業資金の融資を受けるためには事業計画書を提出しなくてはならないが、中野チーフは「借入金のためだけの事業計画書ではもったいない」と、久末社長と目谷専務に話した。そして、どうせ作成するなら、理念・ビジョンを明確にした、中長期の、5ヵ年の事業計画を作ろうと提案した。
「はじめての事業計画書づくりは、まさに『産みの苦しみ』でした。自分の頭の中を整理して、理念や将来のビジョンを文章化してなくてはなりません。本当に大変でしたが経営の勉強になり、経営者としての自覚を深めることができました(久末社長)」
「事業計画書では、売上・利益の目標を設定するだけでなく、その数字の根拠も考えなくてはなりません。損益計算や限界利益などについて学ぶことができ、財務管理の大切さを改めて痛感しました(目谷専務)」
事業計画書は作成することがゴールではない。そこで、計画通りに事業が進んでいるかを、よろず支援拠点に来て、月1回確認していくことになった。「経営相談というか、私たち3人は『作戦会議』と呼んでいます」と中野チーフは笑う。
月一回の「作戦会議」で、現在の経営課題を相談
創業して2年目になると、取引先からの派遣依頼が増え、それに対応できるスタッフ体制が整い、単月で黒字になる月も出てきた。スタッフが集まるようになったのは、登録スタッフが友人や知人にすすめてくれたこと、口コミ効果が大きかった。以前に派遣登録していたスタッフが就職し、その会社から派遣の依頼があったケースもあると、久末社長は言う。
「いい意味で会社らしくないところ、社員との距離が近いところが良いと、スタッフの方から言われています。プライベートでスタッフが事務所に遊びにくる会社は、あまりないかもしれません(久末社長)」
「こちらから困ったことや不満はないか、積極的にスタッフに声をかけるようにしています。取引先にもスタッフの方にも、どちらにも誠実に対応していくことが、当社の使命だと考えています(目谷専務)」
順調に売上が拡大していく一方で、派遣スタッフが増えたことでスタッフ管理に時間がとられ、営業活動に支障が出るようになってきた。よろず支援拠点との「作戦会議」でも、管理業務の効率化が課題となった。
「業務効率化のために、よろず支援拠点のIT分野専門のコーディネーターも「作戦会議」メンバーとして加わり対応した。(中野チーフ)」
ITツールの導入にあたって、ITの専門家を派遣し、現状の業務フローを分析。当初はシステム導入も検討していたが、表計算ソフトを使用した簡易なITツールでも十分に業務改善が可能との結論になり、実務に即した低コストのIT化を進めることができた。
このITツールの導入により、スタッフ管理業務の作業時間は7割減となり、大きく効率化した。また各月の稼働人数、売上管理の把握も迅速にできるようになった。
よろず支援拠点との「作戦会議」では、計画の進捗を報告しながら、IT化以外にも様々な経営課題について相談した。経営改善についてのアドバイスを受け、5カ年計画の3年目までは、順調に目標を達成することができた。
しかし、2019年末、予想外の事態が起こる。新型コロナウイルスの感染拡大だ。
コロナ禍の経験を糧に、経営者としてステップアップを
2020年2月、北海道は全国に先駆けて、緊急事態宣言を発令。学校の休校やデパートや映画館などの利用制限などが行われた。新型コロナウイルスの感染拡大により、地域の観光業・飲食業は大きな打撃を受け、イベントも軒並み中止となるなど、人材派遣のニーズは激減した。
「たとえば、ある観光サービス企業には40人ほどを派遣していましたが、ゼロになりました。イベント運営や飲食業のスタッフ派遣もなくなり、売上は大きく減りました(目谷専務)」
登録スタッフの生活を守るために、2人で懸命に営業活動を進めていたが、新型コロナウイルスの影響は長引き、状況は容易には好転しなかった。
「新型コロナは、会社にとって最大の危機でした。だからこそ、普段以上にスタッフの方や取引先とコミュニケーションをとることを心がけました(久末社長)」
新型コロナが落ち着いたら、どこよりも早く仕事を回してもらうためだった。
ようやく業績が改善したのは、2022年に入ってからだ。5ヵ年の事業計画は最終年度を迎えたが新型コロナの影響で目標達成は難しく、大きく軌道修正せざるを得なかった。しかし、この未曽有の困難を経験したことで、経営者として一歩成長できたのではないかと久末社長は振り返る。
「自分の力ではどうしようもない、理不尽なことにどう立ち向かうかを学びました。また、リーダーの器以上に組織は大きくならない。会社を成長させるためには、自身が成長するしかないと考えるようになったのも、新型コロナのおかげかもしれません(久末社長)」
またコロナ禍でも、よろず支援拠点での「作戦会議」は続いていた。最近は、経営の悩みについて、久末社長・目戸専務と中野チーフが徹底的に対話し、突きつめていくことが多いと言う。このような経営相談のスタイルを、3人は「問答」と呼ぶ。
「問答は、気づきのきっかけにすぎません。実際のところ、答えは経営者の心の中にあって、それを言葉として引き出すことで、経営者が前に進む力になるのだと考えています(中野チーフ)」
「よろず支援拠点で、経営の悩みを聞いてもらうだけでも、気持ちがスッキリします。私にとっては、オアシスのような存在です(久末社長)」
創業して間もない時期に、よろず支援拠点に出会えて、事業計画の策定、経営相談、専門家派遣などのサポートを受けられたことは、幸運だったと久末社長は言う。
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