石材店が事業再構築補助金を活用し、溶岩石タイル事業に挑戦【支援機関とともに 公的支援機関編】
全国には都道府県や市町村と連携して、中小企業の経営をサポートする公的な支援機関があります。
公益財団法人 長野県産業振興機構もその一つです。長野県産業振興機構は、2022年4月に長野県テクノ財団と長野県中小企業振興センターが合併して誕生しました。創業から、人材育成、製品開発、販路拡大、IT導入、海外展開など、地域の中小企業・個人事業者の成長ステージにあわせた、様々な経営課題の解決をサポートしています。
今回の「支援機関とともに」では、墓石などを扱う石材店が「溶岩石タイル」を開発。溶岩石タイルの製造・販売にあたって、公的支援機関から補助金活用のための事業計画策定支援を受けた事例についてご紹介します。
認定支援機関 |
公益財団法人長野県産業振興機構(長野県長野市若里1-18-1) |
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支援企業 | 株式会社上野石材商会 |
企業概要 | 石製品の製造、販売 |
所在地 | 長野県上田市福田10-1 |
WEBサイト | http://ueno-sekizai.co.jp/ |
石材店が墓石市場縮小のなかで、新分野への挑戦を決意
株式会社上野石材商会は、1964年に創業した長野県上田市の石材店である。竹内哲也社長はもともと従業員として働いていたが、先代社長が病気で引退することになり、身内に後継者がいなかったことから、2015年に事業を引き継いだ。事業承継にあたって、個人事業から株式会社になり、現在に至っている。
「事業を引き継ぐことになりましたが、先代の病気が重く経営のアドバイスをいただけない状態。まさに手探りで経営をしていました(竹内社長)。」
経営者となったものの、就任して1年目、2年目、3年目と売上は年々減少してしまった。将来への危機感を感じたと言う。
「このままではダメだ。いままでと同じではダメだ。会社というのは、常に新しい挑戦を続けていかないと死んでしまう。社長になって最初の3年間で、そう痛感しました(竹内社長)。」
まず経営者自身がチャレンジの方向性を示し、それに向かって走り続けようと決意した。いままでの業務フローを見直し、作業のムダを省き、生産効率を高めた。同時に、従業員のスキルと意識を高めることで、石材加工・工事の品質向上を図った。また、若手社員を積極的に雇用し、社内の若返りも進めた。
また、新分野への進出にも取り組んだ。近年、故人供養の価値観は多様化し、一般的なお墓を建てる人は、2005年をピークに減少していると言う。同社の主力である墓石事業の市場が年々縮小していくなかで、同社が成長を続けるためには、「自社の強みやノウハウを活かして、墓石以外の新分野に挑戦していくしかない」と竹内社長は感じていた。
▲ 墓石商品
▲ 社内設備
石材加工技術を活かし、「浅間山溶岩石タイル」を開発
新分野開拓の鍵を握る商材として、竹内社長が注目したのが浅間山の溶岩石である。浅間山は、同社が立地する上田市の東方にそびえる、標高2,568メートルの活火山だ。近年、溶岩石は、独特の風合いをもつ天然素材として人気を集めており、ロックガーデン用の庭石や敷石の他、外壁・床等に利用されているとのことである。
同社は、浅間山溶岩石を約20㎝四方・厚さ2cmのタイル状に加工した新商品「浅間山溶岩石タイル」を開発。テストマーケティングとして、自社のWEBサイトで、浅間山溶岩石タイルの試験販売を行った。
「首都圏の住宅メーカーや設計事務所から、住まいにこだわりのある顧客向けの建材として利用できないかという、問い合わせがありました(竹内社長)。」
ある設計事務所からは、浅間山のお膝元にある軽井沢の別荘の内装材として使うと良いのではないかとのアドバイスをもらった。
テストマーケティングとあわせて「浅間山溶岩石タイル」の効能について、信州大学工学部の研究室と共同研究を行った。その結果、気孔が多い溶岩石は他の石材と比べて、断熱性が高いなど、幾つかの優れた特性があることが明らかになった。たとえば、薪ストーブ周辺のレンガとして使うなど、素材の特性を活かした利用途についても分かってきた。
ちょうどその頃、事業再構築補助金の公募が発表された。コロナ禍で墓石の売上が減少していることもあり、「浅間山溶岩石タイルで新分野に進出」するために、事業再構築補助金を申請。しかし、三回連続で不採択となってしまった。
▲ 浅間山溶岩タイル
▲ 浅間山溶岩タイル導入例
長野県産業振興機構が、事業再構築補助金の策定を支援
三度目の不採択の後、竹内社長は(公財)長野県産業振興機構に事業再構築補助金を活用した浅間山溶岩石タイルの事業展開を相談した。
経営支援部の三島誠司次長は、いままでの事業計画書が、補助金の項目に従って形式を整えただけの「表面的なもの」、社長の自らの言葉で語られていない「借り物」のような計画のような気がした。市場の分析、収支計画についても説得力にかけている部分があった。
「お会いして最初に、『補助金をもらうためだけの事業計画』を作るのは止めましょう。何のための事業なのか、自らの想い・理念・ビジョンを明確にし、そのうえで客観性・説得力のある計画書を作成しましょうとお話ししました(三島次長)。」
何度も話し合うなかで、同業他社にはない強みが見えてきた。石材の加工技術が優れていること、幅広い石材に対応した設備があること、社長・社員の年齢が若いこと、お客様からの信頼が高いことなどだ。これらの強みと、テストマーケティングの結果に基づいた浅間山溶岩石タイルの市場性の高さ、販路開拓の方法などについて、理念・ビジョンに基づいた一つのストーリーとして、事業計画に落とし込んでいくようにアドバイスした。
「三島さんと話しながら事業計画書を作成していくなかで、客観的な視点から新事業と会社を見つめなおすことができました。実現性の高い計画が策定できたと思います(竹内社長)。」
「事業計画の実施責任は、あくまで経営者にあります。経営者として自分が本当に取り組みたい事業計画になっているかを確認しました(三島次長)。」
2022年3月、四度目の正直で第四次事業再構築補助金に採択された。今後、補助金を活用して、設備導入等を行い、浅間山溶岩石タイル事業を展開していく計画である。そして、長野県産業振興機構は認定支援機関として、計画実施にあたって伴走型支援を行っていく。
「墓石業界は古い体質の業界です。そのなかで、当社は伝統や慣習にしばられることなく、新しい挑戦を続けていくつもりです。浅間山溶岩石タイルを、その起爆剤にしたいと思います(竹内社長)。」
「長野県産業振興機構の使命は、地域産業を活性化し、その活力を次世代へ引き継いでいくことです。上野石材商会様のような伝統的な地域企業が、若い社長のリーダーシップのもと新たな挑戦を続けていることは、地域産業活性化の一つのモデルケースになると考えています(三島次長)。」
いま社会環境、市場ニーズは大きく変わろうとしている。また、AI、IoTをはじめ、新技術の発達も目覚ましい。これをチャンスととらえて、新しいチャレンジをしてみようと考える経営者の方は、長野県産業振興機構にぜひ相談してほしいと三島次長は言う。
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