事例から学ぶ!「事業承継」
いま中小企業の経営者の高齢化が進んでおり、経営者年齢のピークはこの20年間で50代から60代後半へと大きく上昇しています。また、後継者の不在状況は深刻であり、中小企業の廃業の大きな要因の一つとなっています。
このままでは日本経済・社会を支える貴重な雇用や技術が失われる可能性があります。将来にわたって、わが国が活力を維持し、発展していくためにも、中小企業の事業承継は重要な課題です。
これまでの事業承継は、子どもなどの親族に経営権を引き継ぐ「親族内承継」が中心でした。しかし近年は、「従業員承継」や「第三者承継(M&A)」も増えてきました。
今回は、ミラサポplusの「事例ナビ」から「事業承継」の様々な事例をご紹介します。
60歳になったら、経営者が自ら事業承継の準備を
事業承継は、一朝一夕にはいきません。後継者の育成期間も考慮すると、事業承継の準備には3年から10年ほどかかる割合が少なくないです。平均引退年齢が70歳前後であることを踏まえると、概ね60歳頃には、事業承継の準備に着手したいところです。また、事業承継は経営者のプライベートな問題にも踏み込む必要があるため、第三者からは切り出しにくい問題です。経営者自らが率先して決断・実行しなくてはなりません。
兵庫県の金属加工メーカーの経営者は60代後半から事業承継に必要性を感じていましたが、日々の業務に追われるなかで先送りにしていました。経営者が70代に入ると取引先から早急に事業承継計画を提出するように強く要望されてしまいました。
同社は商工会の支援のもと、専門家のサポートを受けながら、事業承継計画を急いで策定。計画の策定中に、経営者が重篤な病気にかかるトラブルもありながらも、なんとか無事に事業承継を果たすことができました。もう少し時間的な余裕があれば、より円滑な事業承継ができたかもしれません。手遅れになる前に、早めの準備、計画的な取り組みを心がけてください。
経営者の高齢化に伴い、主要取引先から早急に事業承継の計画書を提出し実行に移すよう強い要望があった。日頃の業務に追われる中、承継問題は先送りにしていたが、自身の年齢を考慮し、社長交代を決意。 稲美町商工会の専門家派遣制度などを活用し、事業承継計画に必要な自社の情報を整理し、5年間で事業承継を完了するための計画書をまとめた。 取引先からも「完成度の高い事業承継計画書」と評価を受けた。新社長は公的支援策を活用し販路拡大など新しい取組に挑戦、2020年3月期決算は売上げが前期比15%増を達成。
会社を磨き上げ、「子・親族に事業承継」
子や親族への承継は、会社の所有(株式・資産等)と経営を一体的に引き継ぎやすいというメリットがあります。一方で、後継者の育成に時間がかかることがデメリットです。また子などの後継者が事業に魅力を感じないため、後継者候補から「継ぎたくない」と言われるケースもあります。
次世代に円滑な事業承継を行うためには、早期から経営者が後継者と二人三脚で経営の「見える化」と会社の「磨き上げ」を行うことが重要です。
経営の「見える化」とは、会社の経営状況を把握すること。自社の強みや弱みを見つけ、取り組むべき課題を明らかにします。後継者に残すことのできる資産、現在の財務状況も見える化しておくことが大切です。
会社の「磨き上げ」とは、企業価値を向上させる取り組みのこと。他社にはない強みを持った会社、効率的な組織体制を持った会社になるためのアクションを起こすことです。
経営者が会社を発展成長させてきた時代と現在とでは、社会状況も経営環境も大きく変わっています。いままでと同じやり方では通用しないかもしれません。事業承継を契機に新分野に進出したり、デジタル化を推進したり、新しいチャレンジをスタートすることも考える必要があります。
長野県のFA機器メーカーは、工場移転・拡張を機に事業継承を行いました。後継者はITエンジニアとして働いていた経営者の子どもで、2008年に入社し営業部で会社の概要を理解した後、3DCAD管理システムの導入、社内システムの刷新に取り組みました。その後、権限の委譲を少しずつ進め、2017年に社長に就任。事業承継後は、働き方改革、作業効率の向上、業務改革をすすめ、売上は事業承継前の2倍、経営利益は4倍になりました。
この事例では、後継者の入社から社長就任まで10年をかけていますが、会社の「磨き上げ」には時間が必要です。
後継者は先代社長から事業承継の打診を受け、2008年に入社。業務フローの理解を深めながら、事業承継の機会を探っていた。その一方で、需要の増加に伴い工場が手狭となっていた。 2014年、既存の6倍の面積を持つ空き工場を取得。同時期に先代社長の業務を洗い出し、事業承継を進めた。主力製品の需要増加や、新工場での作業効率向上、業務改革などにより、承継前と比べ同社の売上げは2倍、営業利益は4倍に伸長した。工場移転と事業承継を一体として取り組むことで、社内外に会社の刷新を効果的にアピールすることができた。
大阪市の業務用資材の加工・輸入販売を行う企業は、子どもへの事業承継をきっかけに新分野に進出しました。
もともとはカーテンフック等の線材加工メーカーでしたが、会社の経営状況や将来性に不安を抱えていた後継者は、新事業を始めることを入社の条件にしました。そして内装材を輸入販売する事業を立ち上げ、一町工場から世界中のユニークな内装材を集め卸売・販売する企業に成長させました。6名だった従業員は現在86名にまで増加しています。
これは会社の「磨き上げ」のために、事業承継を第二創業と位置づけた事例です。
同社は1948年の創業時は木製ねじの製造を行っていたが、その後、同技術をいかし、カーテンフック、キーホルダーのリングなどの線材加工を手掛けるようになり、1990年頃までには従業員は30名程度を擁するまでに成長したが、その後は事業が伸び悩み、2000年代初めには従業員は6名まで減少した。当時、米国で自動車部品の輸入販売事業に携わっていた現代表で、当時の代表友安宏明氏の実子に当たる友安啓則氏は、同社の経営状況に危機感を抱き、2004年に帰国し、同社に社員として入社した。入社の際に、いわゆる第二創業として、先代とは異なる新たな事業を始めることを約し、月15万円の予算の範囲内でできることを始めていった。
人望と能力のある「従業員への承継」
従業員への承継においては、後継者の属性は多様であり、年齢層は幅広く、直前の役職も専務等番頭格の役員・従業員から、優秀な若手経営陣、工場長等と幅広いです。メリットは、経営者としての能力のある人材を見極めて承継させることができること、社内で長期間働いてきた従業員であれば経営方針等の一貫性を保ちやすいといったものがあります。
一方で課題としては、一般的に後継者が将来経営者になることについての認識が弱いこと、経営者の家族・親族などの理解や後継者となる従業員の家族の理解を得ることが容易ではないこと、株式や事業用資産の買取資金の調達などがあります。このような課題を、事前にクリアしておくことが必要です。
大阪府のプラスチック製品メーカーは、親族内に適任の後継者候補がいなかったことから、従業員アンケートを実施し、従業員のなかから後継者を選定。従業員が自ら次の社長を選ぶことで社内の一体感が高まりました。
アンケートはあくまで一例ですが、従業員への承継の場合は、社内から信頼され、人望のある人材を後継者に選ぶことが重要です。またこの事例では、株式の承継にあたっては、金融機関の「事業承継ファンド」が経営者・家族から株式を買い取ることで、後継者の買取資金の負担を軽減しています。
事業承継に当たって、親族内に適任の後継候補者が見付からなかったため、従業員への事業承継を決意。後継者選定に際して、従業員アンケートを実施し、後継者として誰が適任であるか従業員に尋ねた上で後継者を抜てき。 アンケートを通して、従業員が自ら選んだ人が社長になったことで会社としての一体感が高まり、更に新社長にとっても従業員から選ばれたという社内からの強い信頼を感じるなどのメリットがあった。現在は新体制の下、粉砕機、タンクなど粉体関連の新市場で販路開拓に取り組み、事業拡大を目指している。
M&Aなどにより「社外の第三者に事業承継」
後継者がいない場合は、M&Aなどを通じて、社外の第三者に事業を引き継ぐ方法があります。
メリットは、親族や社内に適任者がいない場合でも、後継者となる人材を広く外部から求めることができること、現経営者は会社売却の利益を得ることができるなどがあります。
従業員の雇用や取引先・顧客との関係を継続できることも大きなメリットです。さらに、譲渡先の企業とのシナジー(相乗効果)によって、会社の成長・発展も期待することができます。
M&Aには、半年から1年ほどの時間がかかります。早期に判断して動き出すことが重要です。また買取代金(譲渡対価)は企業価値で決まります。将来のM&Aに備えて、会社の「磨き上げ」を行い、企業価値を高める取り組みを行うことも大切です。
以前は、「M&Aは大企業・中堅企業が行うもの」というイメージがありました。しかし近年は小規模企業や個人事業者によるM&Aのケースが増えています。
岩手県の精肉店は店主が高齢となったため、第三者への事業承継を決意し、事業引継ぎ支援センター(現事業承継・引継ぎ支援センター)の支援のもと、医療福祉関係の会社員だった現代表に事業を引き継ぎました。引き継ぎにあたっては、現代表に看板商品のローストチキンの仕込みや精肉の扱いなどを後継者に指導するなど細やかな事業承継を行いました。これより、看板メニューも従業員の雇用も守ることができました。
当時の社長の平船氏は、70歳を超えてから事業承継を検討し始めたが、子どもは勤め人で、従業員は60歳を超えており、事業継続を最優先に考えて社外の第三者への譲渡を決意した。
また徳島県のスーパーマーケットは経営者の健康面の不安から第三者への譲渡を検討し、事業引継ぎ支援センター(現事業承継・引継ぎ支援センター)のサポートで、首都圏からの移住者に事業を承継しました。スーパーが廃業せずにすんだことで従業員の雇用と地域住民の利便性が確保することができました。くわえて、後継者が高付加価値商品の充実などの新たな取り組みを行ったことで、事業の拡大、成長も実現しています。
前経営者が健康面の不安をきっかけに、廃業も含め事業存続の可否を検討するが、地域の買物の利便性が失われ、地域衰退の加速することを懸念し、第三者への事業承継を模索。徳島県事業引継ぎ支援センターのバックアップにより首都圏からの移住者に事業承継が実現。 事業継続ができただけでなく、後継者が高付加価値商品の充実を図るなど新たな取組を行ったことで地元住民の新規顧客や旅行客の来店が増加した。
事業承継のための支援制度
事業承継には、経営・法律・税法などの幅広い分野の専門的な知識が必要になります。税理士や会計士などの士業等専門家、商工会・商工会議所、事業承継・引継ぎ支援センター、金融機関などの支援機関のサポートを受けながら計画的に進めていきましよう。
⚫︎ 事業承継・引継ぎ支援センター
全国47都道府県に設置する公的相談窓口として、中小企業の事業承継に関するあらゆる相談に対応します。
- (1)親族内承継支援
- 親族等に円滑に承継できるよう、事業承継計画策定等を支援
- (2)第三者承継支援
- 後継者が不在の場合など、相談から、譲受企業の紹介、成約に至るまで、第三者への事業引継ぎを支援
- (3)経営者保証に関する支援
- 事業承継の障害となる経営者保証解除に向けて支援
⚫︎ M&A支援機関登録制度
中小M&Aにおける支援機関の行動指針である「中小M&Aガイドライン」の遵守等を宣言した支援機関を登録する制度です。
事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)において、M&A支援機関の活用に係る費用( 仲介手数料やフィナンシャルアドバイザー費用等に限る。)については、登録M&A支援機関の提供する支援に係るもののみを補助対象とします。
登録M&A支援機関からの支援を希望される方は、「登録機関データベース」からご希望のM&A支援機関へ直接ご相談ください。
また、登録M&A支援機関により中小M&A支援に関する不適切な対応があった場合に、情報を受け付ける窓口(情報提供受付窓口)設置しています。情報提供者等が特定されないように留意しながら、不適切事例として注意喚起に用いるほか、登録制度の運用に利用いたします。
⚫︎ 法人版事業承継税制(一般措置・特例措置)
後継者が、経営承継円滑化法の認定を受けて、非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株式等の承継に係る贈与税・相続税の納税を猶予・免除する制度です。
平成30年度税制改正により、この事業承継税制について、これまでの措置(一般措置)に加え、10年間の特例措置として、贈与税・相続税の全額を猶予・免除する制度が導入されています。
個人版事業承継税制
平成31年度税制改正により、10年間の特例措置として、後継者が、経営承継円滑化法の認定を受け、特定事業用資産※を贈与又は相続等により取得した場合において、その特定事業用資産の承継に係る贈与税・相続税の全額を猶予・免除する制度が導入されています。
※一定の要件を満たした事業用の土地、建物、機械・器具備品等
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