事例から学ぶ!「商品開発のヒント」
顧客ニーズや市場環境は、刻々と変化しています。とくに近年は、技術革新やライフスタイルの多様化などにより、変化のスピードが加速しており、油断していると、既存の商品やサービスはあっという間に陳腐化してしまいます。
このような時代のなかで、企業が持続的に発展・成長していくためには、ニーズや市場を見すえた新商品・新サービスの開発は、重要な経営課題と言えます。
今回は、ミラサポplusの「事例ナビ」から、中小企業・小規模事業者の商品開発(サービス開発)のヒントとなる事例をご紹介します。
既存の技術・設備×新たな発想で、商品開発
新商品開発しようと考えても、中小企業の場合はヒト・モノ・カネなどの経営資源に制約があるため、いままで商品の延長線上で考えてしまいがちです。しかし、先入観のない新しい視点から、既存の技術・設備を見つめ直すことで、いままでと全く異なる新商品・新サービスを開発できるかもしれません。
埼玉県のある会社は、スカーフやのれん、バックなどの小物雑貨を製造販売しています。高度な染色技術を活かした製品は高い評価を受けていましたが、OEMの売上は減少傾向にありました。そこで、染色の技術と設備を活かして、古着の染め直しを行う新たなサービスを開発し、自社のホームページ等で受注を開始。SDGs時代のニーズにあったサービスとして、メディアに取り上げられ、売上を伸ばしています。
売上げの7割を占めるOEMが減収傾向となる中、以前より衣服の大量廃棄問題に問題意識を持っており、サステナブルな新規事業を模索。商工会主宰の事業者支援プログラムに参加し、様々な立場の参加者とアイデアを練り、染め直しサービス「SOMA Re:(ソマリ)」をスタートさせる。 「SOMA Re:」は顧客の環境意識に応えるユニークなビジネスとして、雑誌やテレビなどで取り上げられ、取組を知った消費者から注文が殺到し、開始から半年で受注数500件を突破。納期は半年待ち、売上げの5%を占めるまでになった。
岐阜県の石材店は、墓石を中心に石材の加工を手がけています。その技術を活かして、地元飛騨の石材を加工した、焼肉用の調理機「飛騨溶岩プレート」を開発しました。
この石のプレートは、鉄板よりも熱が均一に伝わり、食材のうま味が引き出せることが評判となり、旅館や飲食店で使われています。最近は、一人用や屋外バーベキュー用など、個人向け商品も開発し、自社ECサイトで販売。巣ごもり需要もあり、売上を着実に伸ばしています。
本業の墓石関連を中心に石材の加工を手掛け、焼き肉用調理器具「飛騨溶岩プレート」の開発など多角化を進めていた。感染症流行により、売上げが落ち込む中、巣籠もり需要に着目し、それまで飲食店向けに販売していた焼肉用調理器具を、家庭向けの製品として新たに開発した。 全ての製品を従業員が一人で加工できるよう教育し、注文に素早く対応できる体制を構築し、自社ECサイトに加え、ECモールにも出店した。楽天市場では2020年5月に月間600枚の販売を記録し、丁寧な対応が評価され月間優良店舗にも選出された。
既存の技術・設備・人材を使って、どんなことができるのが、柔らかい頭で考えてみましょう。
経営者より、従業員や顧客の方が良いアイデアをもっているかもしれません。
「モノ」に「コト」をプラスした商品開発
新型コロナウイルスの感染拡大により、経営環境は大きく変わりました。いわゆる「新しい生活様式」が登場するなかで、ビジネスモデルの修正・転換を余儀なくされた企業も多いと思います。新しいビジネスの可能性を広げた企業もあります。
香川県のバス会社では、「旅先に訪れた気分」になるオンラインツアーを商品化しました。オンライン会議ソフト「ZOOM」を使い、観光名所のライブ中継も入れながら、添乗員(バスガイド)がリアルタイムで観光ガイドします。参加者には、事前に特産品が届けられるので、食べながら、みんなで楽しく旅行気分で味わうことができます。
バーチャルとリアルの融合!オンラインバスツアーで高い集客。「旅先に本当に訪れた気分」
広島県の観光農園は、いちご狩りに訪れる観光客が激減するなか、「巣ごもりいちご狩り」を開発しました。完熟イチゴのパックといちご狩り動画がセットになったもので、自宅でいちご狩り気分が楽しめる商品です。ホームページで販売したところ、メディアにも紹介されて、すぐに完売となりました。その後も、「巣ごもりジャム作り体験」、「巣ごもりさくらんぼ狩り」を開発し、売上を伸ばしています。
農園への団体旅行が全てキャンセル!家でイチゴ狩りが楽しめる「巣ごもりいちご狩り」キットで在庫がなくなるほどの人気を獲得
二つの事例は、新型コロナウイルスの影響による「巣ごもり需要」の獲得を目的とした商品開発の例ですが、そこには新しいビジネスの萌芽も感じます。「モノ(特産品・いちご)」に、「コト(オンラインツアー・いちご狩り動画体験)」をプラスして、インターネット販売するという点です。「モノ消費からコト消費(体験消費)」へと消費行動が変化するなかで、新市場の獲得につながる可能性があります。
「個客」のニーズに応える、カスタマイズ商品の開発
顧客ニーズの多様化が進み、顧客ではなく「個客の時代」と言われるようなりました。大量生産の画一的な商品に満足できない層が増えることは、大量生産による価格競争が難しい中小企業・小規模企業にとって、ビジネスチャンスでもあります。
このことを踏まえると、カスタマイズ商品・オーダーメイド商品は、商品開発の方向性として、有望ではないでしょうか。
香川県でカバンを製造販売する企業はもともと下請取引が中心でしたが、自社ブランド製品の販売に力を入れるために、ホームページをリニューアルしました。このホームページで、顧客が自由に色やデザインを選べるカスタマイズバッグを販売しています。顧客に「自分だけのバッグ」を提供することで、所有することの満足を高めている事例です。
カスタマイズバッグ製作(自分だけのカバン)をメインとしたホームページリニューアルを行った。
また、新商品を広く周知するためにイベント出展等にてワークショップを多く開催した。
国内有数のニットの産地山形県で、ニット製品を製造販売する企業は、長年開発してきた編地のアーカイヴスやニット製造技術を活用して、顧客が自分でパーツを組み合わせてデザインするオリジナルセーターの販売を計画しています。まだ計画段階ですが、カスタマイズ商品の提供という点で、興味深い試みです。
長年開発してきた編地のアーカイヴスやニット製造技術を活かし、顧客がWeb上でセーターのパーツを組み合わせてデザインするオリジナルセーターの製造と電子商取引による販売を行う。
両社に共通しているのは、
- ①下請取引が中心だった企業が自社ブランドを立ち上げたこと、
- ②自社ホームページで販売すること、
- ③差別化の一つとしてカスタマイズ(オーダーメイド)を切口としていることです。
カスタマイズ商品・オーダーメイド商品とインターネット販売は相性がよく、システム構築ができれば、他社との差別化を図ることができます。また、ニッチなニーズを獲得にもつながります。中小企業・小規模企業にとっては相性のいい分野です。
地域資源を活かした、商品開発
地域に密着した中小企業・小規模企業が、他社との差別化を図るために、特産品などの地域資源を活用するのも、一つの方法です。
秋田県の製菓店では、大型店やコンビニでのスイーツの販売により、売上減が続いていました。そこで、地域の特産品である「五城目キイチゴ」を使ったスイーツを開発しました。素材が特産品であることから、ふるさと納税の返礼品や土産品としての魅力が高まり、売上増につながっています。
お得意様の高齢化や人口減少、冠婚葬祭用の菓子注文の減少、大型店やコンビニスイーツの台頭により売上は平成9年度をピークに下がり続けており、この状況を打破するためコンビニエンスストアや大型店にはない地元、地域に密着した商品である五城目町特産のキイチゴを使ったお菓子の販路拡大に取り組む。
高知県の水産加工会社は、地域の近海で初夏にとれる子持ちの「ぎひなご」をオリーブオイルに漬けた「きびなごフィレ」を開発。自社のホームページ等で販売しています。この商品は、グルメ&ダイニングショーなど様々な賞を受賞しました。特色ある食材として、一流料理店のシェフからも好評です。
補助金を活用した設備導入により排熱不良が改善され、調理環境を整えることができた事で商品のラインナップが拡充した。
国内外の商談会で利用するパンフレットやロールスクリーン等を作成しPR力を強化したことにより、新販路拡大による売上及び利益増加を実現した結果、地域雇用への貢献(事務1名・製造担当の正社員2名の新規雇用)と地域資源の活用につなげることができた。
地域資源には、農産物・水産物だけでなく、寺社や文化財、工芸品なども考えられます。このような地域資源を活用した商品開発は、まちおこしや地域活性化につながる可能性があります。
地域に密着した中小企業・小規模企業にとって、取り組みやすい商品開発と言うことができます。
商品開発のポイント
商品開発の一般的な流れとしては、①「市場調査」で顧客ニーズを把握、②調査結果に基づき「商品コンセプト」を作成、③コンセプトに基づいて「商品化」、④マーケティング視点から「販売戦略」を策定、⑤「市場投入」になるでしょうか。
ただし、中小企業・小規模企業には、なかなかハードルが高いかもしれません。そこで、中小企業の商品開発のポイント、4つのステップで考えてみましょう。
ステップ1
みんなでアイデアを出しあう
商品開発の良いアイデアは、顧客の意見やクレームのなかに潜んでいます。普段から顧客の声に耳を傾けることが、商品開発のスタートです。また、経営者一人で考えても良いアイデアは出てきません。「三人寄れば文殊の知恵」との言葉があるように、みんなでアイデアを出しあいましょう。
岐阜県の木工所では、女性のパートや学生のインターンも参加して、新商品のアイデアを出しあい、オリジナル商品の開発につなげています。
アイデアを出しあうブレーンストーミングのポイントは、荒唐無稽な意見でも決して否定しないことです。「質よりも量」を心がけて、たくさんのアイデアをスクリーニングやブラッシュアップしながら、アイデアを磨いていきましょう。
ステップ2
商品コンセプトを明確にする。
商品の方向性が決まったら、商品コンセプトを明確にしていきます。①その商品のターゲットは誰なのか、②その商品はどんな役に立つのか、③自社のどんな技術・ノウハウで商品化するのかを考えます。
良いアイデアだとしても、③自社の技術・ノウハウが活かせない商品・サービスでは商品化、他社との差別化は困難です。
また商品コンセプトの段階で、採算性も考えておきましょう。おおよその商品価格を決め、売上目標や販管費等を算出し、収益予測を立てます。
果たして、その商品コンセプトで「利益ができるかどうか」を冷静な目で判断してください。
ステップ3
商品開発とブラッシュアップ
商品コンセプトに基づいて、商品を開発します。できればリスクを抑えるためには試作品をつくり、限られた市場・顧客に対して、テストマーケティングを行いたいところです。
大企業では、テストマーケティングにより、新商品の「不具合を発見」し、「マーケティング戦略(顧客・市場・販路等の選定)に無理がないか」を確認することも多いのですが、中小企業は、なかなかそこまで手が回らないかもしれません。
しかし近年は、自社ホームページで試験販売したり、クラウドファンディングを商品開発に利用したりする事例も増えています。中小企業もテストマーケティングをしやすい環境が整ってきました。
ステップ4
市場投入・販路拡大
新商品・新サービスを市場に投入します。ここから、販路拡大・販路開拓が重要課題となります。
今回、ご紹介した事例企業のなかには、「持続化補助金」「ものづくり補助金」などの補助金を活用して、新商品の販路拡大・販路開拓をすすめている企業もあります。
持続化補助金は、小規模事業者の販路開拓の取組等を支援する補助金です。新商品のチラシやホームページの作成、商談会の参加等で活用することができます。
ものづくり補助金は、試作品や新サービスのための設備投資等を支援するための補助金です。商品開発の段階から活用できます。
これらの補助金の申請にあたっては、経営計画(事業計画)の作成が必要です。計画には、新商品のコンセプト、差別化のポイント、顧客のニーズ、市場の動向、販売戦略、収益計画などを記載していきます。ステップ②~③の部分を整理し、計画に落とし込む必要があります。
商品開発は、不確定な要素も強く、リスクをともないます。しかし、企業が持続的に成長・発展していくためには、顧客のニーズや将来の市場にあわせた新商品・新サービスの開発が欠かせません。ぜひ、今回の事例を参考にしてください。
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