新天地で、ゼロから地域に愛される店づくり【支援機関とともに 商工会編】
「認定支援機関(経営革新等支援機関)」とは、国が経営の専門知識のある個人や団体を認定する制度であり、税理士・社会保険労務士・中小企業診断士などの専門家が認定支援機関として登録されています。
今回の「支援機関とともに」では、東日本大震災を機に移転し、新たな地で開店したケーキ店が、商工会の支援を受けながら、地域とのつながりを深め、地元に愛される「町のケーキ屋さん」として成長していった事例を紹介します。
認定支援機関 | くろかわ商工会(宮城県黒川郡大和町吉岡南2丁目4-10) |
---|---|
支援企業 | パティスリーシュシュ |
企業概要 | ケーキ・焼き菓子等の製造販売 |
所在地 | 宮城県黒川郡大和町杜の丘1-11-8 |
東日本大震災を機に、新たな土地に新規開店
パティスリーシュシュは、仙台市の郊外、黒川郡大和町の新興住宅地に立地するケーキ店である。店主の菅野淳氏は、2009年に福島県相馬市でケーキ店を開業したのだが、東日本大震災の影響を受け、2015年7月に大和町に転居し、店舗を移転。新規開店と同時に、地域の商工会であるくろかわ商工会の会員になった。
「相馬市の商工会議所でも、経営相談に乗ってもらっていました。この大和町は全く新しい土地で、私には地縁もありません。地域に密着した経営をするためにも、商工会さんにお世話になろうと決めていました。(菅野店主)」
しかし、新規開店当初は知名度不足のため、売上は伸び悩み、順調の船出ではなかった。商工会の経営相談員に、どうしたら売上を伸ばすことができるかを相談すると、「小規模事業者持続化補助金を活用して新たな販路開拓に取り組んではどうか」とアドバイスをされた。
「補助金の申請にあたり、地域のマーケットを分析すると、分譲されたばかりの新興住宅地ということもあり、お店の2㎞圏内には就学前の子どもがいる若い子育て層が非常に多いことが分かりました。そこで、お子様のバースデイケーキ等をお店の強みにしようと考えて、オーダーケーキの種類、クリーム、トッピング、キャラクターイラスト等のオプションを増やすことにしました。補助金では、子どもたちが楽しみながら選べるオーダーケーキのパンフレットを作成し、店頭看板を設置しました。(菅野店主)」
小さな子どもたちにターゲットを絞ったことで、「町のケーキ屋さん」として子育て層に知られるようになり、順調に売上を伸ばすことができた。
また、同店が地域に溶け込み、地域に認知されてきた理由の一つに、商工会のさまざまな活動への参加があると言う。
「くろかわ商工会では、地域活性化イベントも支援しています。たとえば今年はコロナ禍ということもあり、くろかわ商工会が支援している団体で実施した『テイクアウト割引まつり』というイベントを開催しました。菅野さんにも参加してもらい、大変に好評でした。その他、仙台駅で開催した商工会の物産展イベントにも出店してもらうなど、商工会の活動に参加してもらっています。(角田経営指導員)」
地縁のないなかで、商工会を通じてネットワークを広げたことも、地域の周知と売上拡大につながっている。
持続化補助金で、ギフト向け商品を開発
同店は、2017年から東北自動車道のパーキングエリアでも商品を販売している。もちもちの生地の中にクリームやチョコ等を絞った「もちもちオムレット」が、観光客に好評だ。
「パーキングエリアでの商品販売のきっかけとなったのが、商工会から紹介された商談会です。商談会に欠かせない、バイヤー向けのFCPシートの書き方についても、一から丁寧にアドバイスしてもらいました。(菅野店主)」
2019年からは地元スーパーでも商品の販売をスタート。地域の認知度向上、リピーターの獲得につなげている。
サービスエリアやスーパーなど、店舗以外の販売も拡大するなかで、いま同店が進めているのが、ギフトニーズに応えた新商品開発だ。
「サービスエリアなどで販売する商品を充実させたい、また高級感のあるギフト商品を開発し、顧客層を広げたいと考えました。(菅野店主)」
この新商品の開発にあたって、「持続化補助金」を活用。角田経営指導員のアドバイスを受け、強みと弱み、市場の変化などを分析しつつ、事業計画をまとめていった。
「前回の持続化補助金から5年が経ち、コア商圏の家族層の年齢は上がっています。これからは、若い子育てファミリー向けの商品だけでなく、幅広い層をターゲットとした商品開発が欠かせません。また、商品、店舗やパッケージのデザインもそれにあわせて変えていくことについて、話し合いました。(角田経営指導員)」
持続化補助金では、フードコーディネーターのプロデュースを受けながらプリンサンドを開発し、サービスエリアで試験販売を開始した。あわせて、店舗のディスプレイ、商品パッケージのデザイン変更もすすめ、幅広い層にアピールできる新たなブランドイメージの定着を進めている。
▲ もちもちオムレット
▲ プリンサンド
▲ パッケージ
さらなる顧客層と商圏の拡大をめざして
同店の特色の一つが、地場産のフルーツや牛乳、地酒など、地元の食材にこだわったケーキや焼き菓子である。
「たとえば、フルーツは、毎朝市場から仕入れたものを使っています。地元の食材にこだわるのは、鮮度や品質はもちろんですが、7年前に地縁もない大和町で新規開店し、地域の皆様にゼロから育てていただいたという感謝の思いもあります。(菅野店主)」
また、商工会を通じて地域とのつながりもできたこと、いろいろな経営相談に乗ったもらったことも、地域で成長できた理由だと振り返る。
「当商工会では、2回、持続化補助金の支援をさせていただきました。支援にあたって、いつも心がけているのは採択目的の事業計画にならないようにすることです。事業者の経営にプラスになる、今後の成長につながるものでなくては、補助金の意味がありませんから。(角田経営指導員)」
そのために、経営指導員が事業者とともに、経営方針や理念を明確にし、強みと弱みを整理し、顧客や競合などの市場環境を分析したうえで、実現可能な事業計画の策定を支援しているのだと言う。
「現在、新型コロナウイルスの拡大による観光客減の影響を受け、サービスエリア等での商品販売は伸び悩んでいます。これから観光業の復活にあわせて、プリンサンドなどの新商品の販売に力を入れていくつもりです。(菅野店主)」
これから、若いファミリー層からより幅広い層へ顧客を広げ、サービスエリア等での販売を通じて店の認知を広げ、また商圏を広げていきたいと、菅野店主は語る。