月次決算で経営を改善。ものづくり補助金も支援【支援機関とともに 税理士編】
「認定支援機関(経営革新等支援機関)」とは、国が経営の専門知識のある個人や団体を認定する制度であり、税理士・社会保険労務士・中小企業診断士などの専門家が認定支援機関として登録されています。
今回の「支援機関とともに」では、家族経営から企業経営への脱皮を図る経営者に、認定機関である税理士が、月次決算の導入支援、ものづくり補助金の事業計画策定支援などを通じて、経営改善を行ってきた事例を紹介します。
認定支援機関 | 税理士法人あおば(神奈川県横浜市青葉区藤が丘1-24-13) https://aoba-tax.tkcnf.com/ |
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支援企業 | 株式会社紅製作所 https://www.kurenai-mfg.com/company/ |
企業概要 | 機械部品の製造、各種金属の切削研磨加工 |
所在地 | 神奈川県愛甲郡愛川町角田4093-1 |
月次決算を導入し、経営課題に即応
紅製作所は、昭和58年に個人事業の「町工場」として創業した。精密機械部品の加工、とくにチタン合金・アルミ合金などの切削加工を得意とし、その製品は自動車・医療機器・電気機器などの分野で使われている。
平成30年5月には、創業者の長男である溝呂木潤氏が事業を承継。これを機として、個人事業から株式会社に組織を変更した。
「いままでの家族経営から企業経営にしたい。資金調達力を高めて、従業員を雇用し、会社を大きくしたいという思いがありました。そのために、経営面でのアドバイスをいただける税理士の先生を探していました(溝呂木社長)」
個人事業の頃は青色申告であり、決算時に税理士に記帳指導を受けていたが、今後企業として成長していくためには、それだけでは不十分だと感じていたと言う。そんな折、取引先の企業から税理士法人あおばを紹介され、令和2年5月に顧問契約を結んだ。同社の担当税理士となったのが、角田孝哉税理士である。
「私たちは、顧問先に『自計化』と『月次決算』をお願いしています。これが企業経営の基本であると考えているからです(角田税理士)」
自計化とは、領収書や請求書などの伝票の整理、記帳業務、仕訳入力といった経理事務を自社で行うこと言う。税理士は、会計ソフトの入力や仕分の方法などをサポートするが、あくまで業務を行うのは自社だ。経理業務を社内で行うことで、「経営者の数字に対する意識が大きく変わる」と角田税理士は言う。
自計化をすすめる最大の理由は月次決算を行うためだ。毎月、売上・粗利などの経営数字を出すことで、事業計画の進捗状況が分かり、資金繰りも明確になる。
「お恥ずかしい話ですが、いままでは現時点でどのくらい収益が出ているかも把握できていませんでした。たとえば、どのくらいの設備投資が適当かという判断もつきません。場当たり的な経営になってします。いまは角田先生と毎月面談し、月次決算の結果をもとに、売上目標や設備投資、雇用、販路開拓などの相談をしています(溝呂木社長)」
「テクノロジーの進化や経営環境の変化の速さが、昔とはけた違いになっています。昔ならば、年次決算、上期下期決算で良かったかもしれませんが、いまは月次決算で経営数字を早めに把握し、様々な課題に対して、すばやく対応する必要があります(角田税理士)」
補助金を活用した、設備投資を支援
同社の強みは、難削材と言われるチタン合金の切削加工である。この強みをさらに活かすため、溝呂木社長はものづくり補助金を活用して、チタン合金の切削から研磨までを一貫して行える体制を構築したいと考えていた。
「研磨工程の経験をもつ従業員を2名雇用しました。ものづくり補助金で、研磨加工機と測定器を導入したいと思っていたのですが、二回連続で不採択となっていました(溝呂木社長)」
そこで、角田税理士に「ものづくり補助金」の申請について相談した。
「ものづくり補助金では、導入設備がどのような事業効果をもたらすのか、どこに革新性があるのかを、事業計画できちんと示さなくてはなりません。毎月、月次決算をベースにしながら、経営方針や経営戦略の相談を受けていたので、説得力のある事業計画が作れたのではないでしょうか。また、ものづくり補助金の作成支援を通じて、同社の技術・生産体制について深く理解することができました。これにより、より的確な経営支援やアドバイスができるようになったと思います(角田税理士)」
ものづくり補助金を活用し、研磨加工機と測定器を導入したことで、研磨工程の加工精度と生産効率が向上した。これにより、難削材の切削から加工まで一貫して行える体制が整い、売上・粗利とも伸ばすことができたと言う。
▲ 測定器
▲ 研磨加工機
身近な経営の相談相手として、事業計画の策定を支援
「いままでは、記帳指導・記帳代行をお願いするのが税理士の先生というイメージでした。しかし角田先生には、身近な経営の相談相手として、雇用から販路開拓まで幅広いアドバイスをいただいています(溝呂木社長)」
角田税理士と知り合ってから、税理士のイメージが変わったと溝呂木社長は言う。このような税理士の役割について、税理士法人あおばの池田忠博代表はこう語る。
「いままで多くの中小企業の経営者とお会いしてきましたが、どの経営者もアイデアとやる気は持っています。しかし、それを具体的な事業計画まで落とし込むのは、なかなか大変です。税理士が経営者に寄り添い、経営計画・事業計画の策定から実施までを支援し、アイデアとやる気を形にしていければ、中小企業はもっと元気になるのではないでしようか。そのなかで、資金調達の一つの方法として、補助金や制度融資の活用を提案していくのが理想的です。(池田代表)」
「社長就任を機に、法人化したのは、会社を大きくするためでした。月次決算をすることで、予算と実績の数字を比較して、毎月の目標を明確にした経営ができるようなりました。一歩一歩、会社が成長している実感があります(溝呂木社長)」
今後も、月次決算を行い、着実な経営を行うことで、会社を大きくしていきたいと語る。