生き残りをかけて、印刷技術を活かして、新事業に挑戦【支援機関とともに 商工会編】
「認定支援機関(経営革新等支援機関)」とは、国が経営の専門知識のある個人や団体を認定する制度であり、税理士・社会保険労務士・中小企業診断士などの専門家が認定支援機関として登録されています。
今回の「支援機関とともに」では、ネット通販の普及やペーパーレスの伸展により、厳しい経営環境にある地方の印刷会社が生き残りをかけて、補助金活用などの支援を受けながら、新たな事業分野に挑戦した事例を紹介します。
認定支援機関 | 天塩商工会(北海道天塩郡天塩町新開通4丁目) |
---|---|
支援企業 | 天塩共同印刷株式会社 |
支援概要 | オフセット印刷、オンデマンド印刷、ガーメントプリント |
所在地 | 北海道天塩郡天塩町山手通3丁目36-4 |
厳しい経営環境のなかで、事業を承継
天塩町は、北海道の最北市である稚内市から日本海沿いに南下して70kmほどのところ。石狩川に次いで北海道で二番目に長い川「天塩川」の河口に開かれたしじみ貝で知られる町だ。近年は、少子高齢化と都市部への人口流出が進み、人口は3,000人弱となっている。
天塩共同印刷株式会社は、昭和52年に「天塩共同印刷企業組合」として設立された。自治体・学校の各種印刷物、企業のチラシ・パンフレット・伝票・名刺などを受注し、地域に密着した印刷会社として成長してきた企業である。
佐久間勇次社長は札幌市で自動車ディーラーに勤めていたが、平成17年、30歳の時に義父が経営するこの会社の後継者として入社した。
「入社当時から、中小印刷会社の先行きは大変そうだなと感じていました。大手との価格競争は厳しくなっていましたし、地域は人口の減少や企業の撤退もあり、印刷物は減りつつありました(佐久間社長)」
このようななかで、佐久間社長(当時専務取締役)が活路を見出したのが、小部数の「オンデマンド印刷」である。今までの印刷(オフセット印刷)は大部数印刷には適していたが、大手との価格・品質では歯が立たない。オンデマンド印刷ならば、地域の企業や商店からの小部数印刷ニーズに対応することができ、価格面でも大手印刷会社にも対抗できると考えた。
佐久間社長は、後継者として経営の立て直しを図りながら、地域の企業・団体とのネットワークも広げていった。
「平成23年からは、商工会の青年部長としても活躍していただきました。会員の高齢化が進むなかで、地域活性化イベントにも積極的に参加してもらっています。天塩町にとって欠かせない存在です(矢野経営指導員)」
商工会の青年部長の他、教育委員、観光協会役員も歴任し、地域からの信頼も厚いと言う。
平成31年3月、佐久間氏は義父より事業を承継し、社長に就任した。
新規事業として、ガーメントプリントに挑戦
印刷業界をめぐる経営環境は年々厳しさを増していた。ネット通販の登場により、印刷物の価格破壊は進み、収益率は大幅に低下。くわえて、デジタル化によるペーパーレスの伸展、さらには地域の人口減少などにより、同社の売上は低迷していた。
「社長就任にあたって、まず事業計画を策定しました。改めて売上・利益率の推移を数字でみると、このままでは生き残れないのではないかとの危機感を抱きました。そこで、企業組合から株式会社に組織変更し、補助金や融資などを受けやすい体制にするとともに、新たな事業を展開しようと決意しました(佐久間社長)。」
「事業承継と組織変更について相談を受け、商工会としても支援をさせていただきました。そのなかで、社長からガーメントプリントを新たな収益の柱にしたいとの話がありました(矢野経営指導員)」
ガーメントプリントは、布地専用のインクジェットプリントで、直接インクを吹きつけて、Tシャツやパーカー、トートバック等を一枚からフルカラーでプリントできるもの。紙の印刷物で培った同社のデザイン力やデジタル技術が応用できることも、強みだった。
ガーメントプリントを試験的にスタートすると、地元のスポーツ少年団、サークル団体の他、基幹産業である漁業者や酪農者のオリジナルユニフォームとして多くの注文があった。また、道北エリアでガーメントプリントの競合がほとんどないことから、商圏外からの注文を受けることができた。
「予想以上の手ごたえを感じることができため、持続化補助金を活用して、ガーメントプリントを本格的に展開することにしました(佐久間社長)」
令和2年10月、ガーメントプリントの印刷品質と生産性向上のため、コンベア式乾燥機を導入。これにより歩留まりが高まり、コストダウンを図ることができた。
「持続化補助金の申請にあたっては、事業計画を策定し、ガーメントプリントのターゲット・販路について整理していきました。その販路の一つとして、オリジナルデザインTシャツの販売もあるのではないという話になったのです(矢野経営指導員)」
道の駅でオリジナルグッズを販売
同社から歩いて10分ほどのところに、道の駅「てしお」がある。70km先の稚内市に行く途中の最後の道の駅であり、ドライバー・観光客の利用も多い道の駅だ。
同社は、北海道らしさをモチーフにしたオリジナルデザインTシャツを企画し、ご当地商品として道の駅のアンテナショップで販売している。
「コロナ禍で観光客が減少しているにもかかわらず、Tシャツの売上は好調です。今後は、Tシャツのバリエーションをさらに充実させたいと考えています(佐久間社長)」
「人口減少が進み、市場が縮小する傾向にある天塩町にとって、道の駅は地元商品の貴重な販路です。厳しい経営環境にある事業者が多いなかで、天塩共同印刷を一つの成功事例として、道の駅を活用した販路開拓、販売支援などに取り組んでいきたいと考えています(矢野経営指導員)」
令和3年3月、同社はものづくり補助金を活用して、最新型のオンデマンド印刷機と、紙製品を自由な形で切り抜くことができるカッティングプロッターを導入。これにより、シールやステッカーの印刷から加工までを内製化し、細かなニーズに対応できるようになった。
「細かなニーズへの対応を強みに新たな顧客を獲得するとともに、オリジナルステッカーをオリジナルTシャツに次ぐご当地商品として展開し、道の駅で販売しています。印刷業は受注型ビジネスで、お客様からの注文がなければ仕事が発生しません。しかし、Tシャツやステッカーは自社で製造・販売を自発的・戦略的にコントロールできる商品です。受注型と自発型を組み合わせることで、経営の安定を図っていきたいと思います(佐久間社長)」
地域に欠かせない、地域に密着した印刷会社を存続させていくために、これからも様々な挑戦をしていきたいと佐久間社長は語る。