「経営革新計画」を策定し、支援制度を活用し、大型商業施設に出店【支援機関とともに 商工会議所編】
「認定支援機関(経営革新等支援機関)」とは、国が経営の専門知識のある個人や団体を認定する制度です。中小企業・小規模事業者にとって、身近な認定支援機関の一つが、地域の商工会議所や商工会です。
認定支援機関では、経営全般のアドバイスを行っています。「経営革新計画」という事業計画の作成支援もその一つです。今回の「支援機関とともに」では、小規模事業者が「経営革新計画」の策定を通じて、事業の課題や目標を明確にするとともに、支援制度を活用しつつ、商業施設へのテナント出店を行った事例を紹介します。
認定支援機関 | 名古屋商工会議所(愛知県名古屋市中区栄2丁目10-19) |
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支援企業 | 株式会社 IXY-AID(イクシエイド) |
企業概要 | ドイツ製法ハム・ソーセージの専門店「メツゲライ・イノウエ」の運営 |
所在地 | 愛知県名古屋市千種区覚王山通8丁目36 冨士屋ビル 1F |
ホームページ | https://metzgerei-inoue.com/ |
商業施設へのテナント出店にあたり、商工会議所に相談
株式会社 IXY-AID(イクシエイド)は、本格的なドイツ製法ハム・ソーセージの専門店「メツゲライ・イノウエ」の運営会社である。
井上大輔社長がドイツ製法ハムソーセージと出会ったのは、いまから10年以上前にさかのぼる。ハム・ソーセージづくりの職人から世界銀賞の商品を紹介され、いままで経験したことのない美味しさに驚いた。「たくさんの人に、この感動を味わってもらいたい」と自社ブランドを立ち上げ、ハム・ソーセージ専門店を起業した。しかし、当初は苦労の連続だったと語る。
「原材料・製造方法にこだわりながら、採算性を度外視して販売していたことが原因です。ゼロから経営を学びつつ、利益が出るようになるまでに、約3年かかりました。その間に、当社のハム・ソーセージのファンが増え、適正価格で販売できるようになったおかけです(井上社長)」
「あの店のハム・ソーセージ、値段は高いが味は抜群にうまい」との評判が広まると、名古屋駅前の代表的な商業施設「大名古屋ビルヂング」にテナントとして出店しないかとの誘いがあった。
「とてもチャレンジングな話でした。しかしテナント出店にあたって、社内体制も資金面でも、様々な課題がありました。(井上社長)」
そう考えた井上社長は、2020年10月、名古屋商工会議所の経営相談を利用することとした。テナント出店予定の半年前のことである。
専門家派遣制度を活用し、社内体制について相談
同社の経営相談を担当したのが、名古屋商工会議所の鬼頭慎二経営指導員である。
「現在、コロナ禍でたくさんの中小企業・小規模事業者が苦境にあります。しかしながら、厳しい経済環境の中で井上社長は商業施設に新規出店しようとしている。このような飛躍をめざす企業へのチャレンジをサポートすることに、大きなやりがいを感じました(鬼頭経営指導員)」
体制面の課題としてまず挙げられたのが、従業員の労務管理だ。いままでは本店だけだったので、労務管理はシンプルだったが、複数店舗となるとそうはいかない。また年中無休の大型商業施設では、従業員のシフト管理も不可欠となる。
「社内体制の課題を解決するために、『エキスパートバンク専門家派遣制度』を活用して、社会保険労務士の先生を派遣してもらいました。働き方改革の時代です。適切な労務管理ができなければ、事業の発展も、企業の成長も望むことはできません。(鬼頭経営指導員)」
同社では、社労士のアドバイスを受けながら、テナント出店にあたって社内体制の整備を進めることとした。
経営革新計画の認定を受け、低利融資により資金調達
井上社長が、商工会議所の経営相談で最も相談したかったこと。それは、テナント出店のための資金調達の方法である。
「はじめにアドバイスされたのが、金融機関との付き合い方です。今後、企業として成長していくためには、金融機関に事業用の口座を開設し、法人営業部門に相談できるようにしておくことが大切と言われました。また、その際に『経営革新計画』の策定をすすめられました(井上社長)」
この経営革新計画とは、中小企業が新しい事業に取り組むための事業計画である。都道府県に計画を提出し、都道府県知事に承認されると、低利融資などの様々な支援策の対象となり、補助金申請・採択でも有利になることがある。
令和2年度は全国で約8400件の経営革新計画が承認された。
「経営革新計画を策定するには、売上高、売上原価、販促費、人件費などの数値計画を明確にしなくてはなりません。テナント出店という新事業の経営計画を立て、経営革新計画として公的機関に評価してもらうことは、とても有益です(鬼頭経営指導員)」
「テナント出店について、頭の中には確固たる事業計画があるつもりでした。しかし、文章としてアウトプットし、計画書を書いていくと、様々な穴が見えてきます。商工会議所のアドバイスを受けながら、その穴を埋めていきました。初めてのテナント出店ですから、不安はあります。計画書を作成していくことでやるべきことが明確になり、心の安定にもつながりました(井上社長)」
経営革新計画の認定により、審査を経て低利融資を受けることができた。結果として、テナント出店の設備資金調達がスムーズに進んだが、それ以上に経営革新計画の策定により、経営課題が明確になったことが大きいと井上社長は言う。
テナント出店から、さらなる成長をめざして。
2021年4月、本格ドイツ製法ハム・ソーセージ専門店「メツゲライ・イノウエ」は、大名古屋ビルヂングにテナントを出店した。
「コロナ禍が続いており、楽観はできませんが、当初目標はクリアしています。このテナント出店を成功させて、さらなる多店舗展開や新たな事業に挑戦していければと考えています(井上社長)」
テナント出店にあたり、経営革新計画の認定を受けたことは経営の自信になった。
また、同社では「先端設備導入計画」、「経営力向上計画」の認定も受け、固定資産税の軽減措置(名古屋市)、法人税制優遇措置(農政省)などの支援を受けることができた。
「国・都道府県・市町には、補助金や低利融資、優遇税制など様々な支援策があります。これらを活用するためには、支援策に合致した事業計画(経営計画)が必要となる場合がほとんどです。とはいえ、事業計画は支援を受けるために作成するのではありません。事業計画は、経営課題と目標、やるべきことを明確にし、事業を成功に導くためのものです。(鬼頭経営指導員)」
今後も事業計画のアドバイスなどを通じて、中小企業・小規模事業者の経営全般のサポートをしていきたいと鬼頭指導員は言う。
メツゲライ・イノウエ 大名古屋ビルヂング店
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