よくわかる、補助金の申請事例 ~烏骨鶏が主役の「ふれあい直売所」づくり[持続化補助金]~
補助金を事業の成長発展のために活用するためには、明確な戦略とビジョンに基づいた計画づくりが欠かせません。
今回は、補助金申請を通じて自社の強みを再確認し、その強みを活かした戦略により、事業の発展・成長につなげていった事例をご紹介します。
事業者と支援者の方に実際の申請書を見せていただきながら、計画書作成の際に気をつけたことや作成のポイントなどを教えていただきました。
※申請種類は、申請当時のものであり、書式は現在と異なります。
申請補助金 | 平成30年度 第2次補正 小規模事業者持続化補助金 |
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補助事業 | 鳥骨鶏を身近に楽しめる「うこっけいの森」をつくろう |
申請者 | 合同会社にんたま 代表社員 高橋恵美子 |
支援者 | 森町商工会 経営指導員 平田 貢一 |
補助金交付額 | 500,000円 |
合同会社にんたま
目次
補助金を申請したきっかけ
「ふれあい型直売所」により、集客を伸ばしたい
合同会社にんたまは、「烏骨鶏専門」の養鶏場である。烏骨鶏は、普通よりも小ぶりな鶏で、まるでロシア帽をかぶっているような可愛らしい外見が特徴だ。中国では霊鳥と呼ばれ、漢方薬の原料としても使われてきた。日本では江戸時代に愛玩用等として輸入され、その希少性から天然記念物(特別天然記念物ではないため、食べることは可能)に指定されている
その卵は、栄養価が高く美味だが、烏骨鶏はストレスに弱いため飼育が難しく、産卵数についても一般の鶏が年間250~300個に対して40~50個と少ないため、全国でも烏骨鶏を飼育している養鶏場は数えるほどしかない。
同社の高橋恵美子代表は、平成28年に父親から事業を承継。事業を承継後、飼育する鶏を烏骨鶏に絞り、「烏骨鶏が主役」の養鶏場づくりをすすめてきた。補助金の活用にも積極的であり、平成28年度の持続化補助金で烏骨鶏の卵を利用したスイーツ開発とホームページ(通販サイト)の開設を、平成29年度の持続化補助金ではシニア層をターゲットにした販売促進等を行っている。
そして平成30年度の持続化補助金で、「うこっけいの森をつくろう」をテーマに、烏骨鶏小屋と周辺の整備を実施した。
「烏骨鶏小屋を目当てに、お孫さん連れ、お子さん連れのお客様が増えてきたのが動機です。天然記念物の烏骨鶏を主役にした『ふれあい型直売所』をつくれば、集客につながるのではないかと考えました。」
持続化補助金の申請にあたっては、地域の商工会に相談し、支援を受けた。
「事業承継の直後から、同社は補助金を活用して、新しい事業に挑戦しています。今回の『うこっけいの森』もその一つです。」
経営計画書のポイント
経営計画書は、補助事業の「実現可能性」のバックボーンになるものです。
今回は、ふれあい型直売所の潜在的なニーズ、交通アクセスの良い立地、主役である烏骨鶏自体の特徴について触れ、集客・売上につながる魅力な観光施設に発展する可能性を述べています。
烏骨鶏の魅力をアピールする
同社の最大の特色であり、強みとなるのが、天然記念物の「烏骨鶏」である。経営計画書では、烏骨鶏について紙数を割き、その魅力を分かりやすく記載した。
「もともと当社は他の種類の鶏も飼育してましたが、私が事業承継して烏骨鶏一本に絞りました。きっかけの一つは、平成28年度の持続化補助金の申請です。申請書を作成していくなかで、自社の強みを伸ばすために、烏骨鶏を主役にしていく戦略が明確になりました。」
作成にあたっては専門家派遣制度を利用し、専門家からブランディングやマーケティング等のアドバイスを受けたことで、理念やビジョンを整理することができたと言う。
「出会った時から、高橋さんは烏骨鶏へのこだわり、情熱を語っていました。今回の経営計画書にも、それが表れています。」
顧客ニーズとして烏骨鶏を見てみたいというお客様が増えつつあること、市場動向として「モノよりコト」というコト消費が増えていることを記載した。
また商品・サービスの強みとして「烏骨鶏が主役」をコンセプトに、烏骨鶏の卵を使ったプリンやロールケーキ、どら焼きなどの商品を開発していることなども記載した。
「烏骨鶏はストレスに弱く、飼育が難しい鶏です。私たちは烏骨鶏の専門ノウハウを蓄積することで育成率を高め、卵の価格競争力を高めています。」
同社の烏骨鶏の卵は1個100円程度。高価なようだが、同業他社は300~500円のところが多く、かなり安価だと言う。
観光施設としての可能性について記載する
「うこっけいの森」は、直売所であるとともに観光施設としての側面も持っている。前提となるのが、烏骨鶏の希少性である。経営計画書では、希少性とともに、烏骨鶏の外見的な特徴(愛玩動物としての可愛らしさ)についても記載した。
また、立地面も重要なポイントとなる。
「県道40号線沿いで交通の便が良いこと、新東名の森掛川ICも近いことから遠方からのアクセスも良いことを記載しました。また当社のある森町は遠州の小京都と呼ばれており、小國神社をはじめ年間100万人の観光客が訪れることも利点です。」
このような立地環境の強みとともに、経営計画書では、将来的に、天然記念物の烏骨鶏を主役とした「ふれあい型直売所」を、森町の新しい観光スポット「観光農園」に発展させていきたいというビジョンも示した。
補助事業計画のポイント
補助事業計画では、補助事業についての「具体的な施策」はもちろんですが、補助事業の事業効果を高める「自主事業(補助対象外の事業)」についても記載することで、補助事業の説得力が増します。
烏骨鶏のストレス防止に配慮した設計
今回は「うこっけいの森」の外構工事のみを補助事業とし、付帯工事や販促活動は自主事業として記載した。
「烏骨鶏はストレスを感じやすい鶏です。設計にあたっては、『見たい、ふれあいたい』というお客様のニーズと、烏骨鶏のストレス防止を両立させることに心を配りました。」
新たに設置する烏骨鶏小屋と休憩スペースの間にフェンスを貼り、見学者と烏骨鶏が適度な距離を取れるように配慮。休憩スペースは、ケヤキの木陰に置き、烏骨鶏を眺めながら一休みできるように工夫した。また、ふれあい環境を高めるために、車道から切り離すため新たな塀も設置。これにより、烏骨鶏を主役とした、ふれあい型直売所「うこっけいの森」の実現を図ることとした。
集客を販売につなげる仕組みづくり
自主事業としては、烏骨鶏をモチーフとした雑貨やお菓子などラインナップの拡充を挙げた。魅力ある土産品の開発である。
販促活動としては、既存顧客に配布しているニュースレターによる「うこっけいの森」の周知、ホームぺージやSNSなどによる「うこっけいの森」情報発信などを挙げた。
また「うこっけいの森」から直売所に誘導するための施策としてスタント看板を設置し、子どもが好きなプリンやロールケーキを紹介し、立ち寄り意欲を高めることとした。
補助事業の効果
「うこっけいの森」は、2019年11月にオープンしましたが、2021年2月現在、鳥インフルエンザ感染防止対策のため閉鎖中です。
オープンからの補助事業の効果についてうかがいました。
子どもをきっかけに、来店層が拡大した
「うこっけいの森」のオープンは、集客の増加だけでなく、来店層・顧客層の拡大に効果があったと言う。
「烏骨鶏の卵は、葉酸が豊富にふくまれるなど栄養価が高く美味ですが、価格が高いというのが難点です。そのため、いままでコアターゲットを『健康意識が高く、食にこだわりを持つシニア層』に置いていました。しかし、『うこっけいの森』をきっかけに、子育て家族層の来店、お孫さんを連れた来店が目に見えて増えました。」
近年、烏骨鶏の可愛らしい姿からペット人気が高まっていることも一因だと言う。なかには、首都圏から訪れる家族連れもいるとのことだ。
その効果は同社の売上にも反映しており、烏骨鶏卵の直売数を2017年度と2019年度で比較すると、約3倍にまで増加している。
「直売数・売上高が伸びているのは、『うこっけいの森』だけでなく、補助金を活用しながら、烏骨鶏スイーツの開発、インターネット通販の開始、シニア層への販売促進など、新しいことに挑戦してきた結果だと思います。」
「事業承継直後は、経営のイロハも分からない状態でしたが、補助金の申請を通じて、経営者として成長できたと感じています」
また、戦略と理念が明確になったことで、従業員の接客姿勢も変わり、それがサービスの充実につながっているのだと言う。
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