新型コロナウイルスに負けるな。飲食業の挑戦。 ~飲食店「なすびグループ」の対策事例から~
新型コロナウイルスの感染拡大は、日本経済に深刻な影響を与えている。なかでも飲食業の被害は甚大だ。
静岡市を中心に和食店など16店舗を展開する、なすびグループも例外ではなく、新型コロナウイルスにより、大幅な売上減となった。そのコロナ禍の最前線にあって、なすびグループは、どのような対策をとり、どのような戦略をとっているのか。グループの代表である藤田圭佑社長にお話をうかがった。
目次
新型コロナは、飲食業にとって未曽有の危機
「今回のコロナ禍により、飲食業は、未だかつて経験したことのない危機・リスクに直面しています。正直に言うと、私たちも解決方法は分かりません。いまも試行錯誤している状況です。」
と話すのは、なすびグループ代表の藤田社長。
リーマンショックなど、これまでも大変な時期はあった。しかし今回は、「いままでとはまるでレベルが違う」と言う。
新型コロナウイルスの感染拡大が続くなかで、これからどのような状況になるか、全く見通すことができない。先行きが見えない不安を抱えながら、対策と戦略を立てなくてはならない。そのなかかで同グループは、どのような対策をとったのだろうか?
対策①:販売管理費の圧縮
2020年2月まで、同グループの業績は好調だった。しかし、3月に入ると、宴会のキャンセルが相次ぐ。そして4月、緊急事態宣言が発令されたことで、4月6日から5月末までテイクアウト店舗以外の店舗を休業した。この時、同グループが最初に取り組んだのが「販売管理費」の圧縮である。
「この費用が本当に必要なのか、なんとかコスト下げる方法はないのか、経営チームで過去の請求書を一枚一枚確認していく作業をしました。新型コロナの危機を乗り越えるために、最も重要となるのがキャッシュアウトを防ぐことだと思います。金融機関からの特別融資、雇用調整助成金・家賃支援給付金などの公的支援策を積極的に活用していくことはもちろんですが、今回のように影響が長期間におよぶ場合、販管費の圧縮が生き残りには欠かせません。」
同グループは、4月~7月までの販管費を前年比で45%も削減。さらに雇用調整助成金などの公的支援を活用しながら、財務の健全性をできる限り維持することに注力した。
対策②:感染防止策の策定と周知
5月末に、なすびグループは店舗を再開した。店舗の再開にあたって、新型コロナウイルス感染拡大防止に対するグループの取り組みを「NASUBI POLICY」として自社のホームページで発表した。
NASUBI POLICYでは、換気方法、ソーシャルディスタンス、パーテーション、入店時検温、非接触型オーダーなどを、写真で分かりやすく紹介している。お客様にお願いするルールだけでなく、バックヤード(従業員)のルールも一緒に記載しているのが、特徴だ。策定にあたっては、内閣官房がまとめている「業種別ガイドライン」を参考にしたと言う。
「お客様に安心してご来店していただくために、グループの感染防止対策を明確にし、公表し、お客様に周知しました。お客様からは安心して来店できると好評でした。NASUBI POLICYでは、飲食店の業種別ガイドラインを最低限のガイドラインとして、グループ独自の厳しいルール、お食事中のマスク収納袋をご用意するなどのアイデアを取り入れています。また、NASUBI POLICYは警戒レベルなどの状況変化にあわせて更新しています。」
対策③:ビジネスモデルの修正「テイクアウト」
第三波の到来により、12月の忘年会シーズンの売上は激減。なすびグループの売上の多くを占めていた、法人需要はほとんどなくなくなった。
コロナ禍の売上減が長期にわたるなかで、2020年〇月、同グループはホームページで各店舗の人気メニューの注文(テイクアウト)ができる「おうちdeなすび」のサービスを開始した。
「7月に期間限定でプロの料理人の弁当や惣菜を販売しました。これが好評だったこともあり、なすびグループ各店舗のこだわりの料理が自宅で楽しめる、テイクアウトサービスを本格的にスタートさせました。もともと当グループのケータリング事業の売上は約15%ほどでしたが、21年度はテイクアウトも含めたケータリング事業を35%に引き上げようと考えています。」
感染見通しが不確かななかで、しばらくはテイクアウト・ケータリングに注力するとのことだ。
対策④:ビジネスモデル修正「顧客層の拡大」
同グループは地元産の海の幸、野の幸を使った「こだわりの和食」が特色であり、顧客層は社会人・シニア層が中心である。しかしいままで顧客層の外食需要が急速に減少するなかで、新たな試みとして、和食店「草薙茄子兵衛」の店舗で、13時30分~17時の時間限定のパンケーキの専門店「cafe nasube」をオープンさせた。
「cafe nasubeのメインターゲットは、20代前半の女性層。いままでの当グループの顧客には、あまりいなかった層です。新型コロナ感染防止のため、30分ごとの入れ替え制で運営していますが、ふわふわの食感のパンケーキが人気ということもあり、常時8割以上が埋まっている状態です。テイクアウトも休日は完売が続いています。」
Cafe nasubeは、20代前半の女性層にリーチするため、ホームページではなくInstagramでショップや商品を紹介。公式アカウントのフォロワー数は3,000を超えており、いままでのなすびグループとは異なる顧客層を着実に取り込んでいるとのことだ。
対策⑤:新事業展開「販路の拡大」
新型コロナウイルスの収束時期が不透明ななかで、いまなすびグループはテイクアウトから一歩進んで、プロの料理をチルド化した商品サービス「クラウド・ナスビ」の開発をすすめているところだ。チルド化することで、鮮度を保ったまま一定期間の保存が効くようになり、スーパーマーケットやデパートでの店舗販売、インターネット通販による全国販売も可能になる。
「クラウド・ナスビの目的は、もちろん新型コロナウイルス対策です。しかし一方で、当グループのビジョンである『静岡の食文化の創造と発信』を全国に広げていくという意義もあります。この新事業は、アフターコロナになっても継続していくつもりです。」
実は、このコロナ禍にあって、同グループは一流ホテルの総料理長をスカウトした。グループの生命線である料理のクォリティをさらに高めるためだ。そして今後について、「私たちも何が正解は分かりませんが」と前置きしながら、藤田社長はこう語る。
「いま当グループも含めて、日本の飲食業は非常厳しい状況にあります。しかし、コロナ禍が永遠に続くことはありません。また外食産業がなくなることも絶対にありません。その先に明るい未来があることを信じて、準備をしていきたいと思います。」
株式会社 なすび
事業内容
- ・和食を中心とした飲食店の経営及び企画運営
- ・公共施設内のレストラン・カフェ・バンケットの企画運営
- ・仕出し及びケータリング事業など
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