中小企業庁担当者に聞く「中小企業新事業進出促進補助金」
中小企業新事業進出促進補助金(新事業進出補助金)は、令和7年度から新たにスタートした補助金です。
中小企業等が行う、既存事業と異なる事業への前向きな挑戦であって、新市場・高付加価値事業への進出を後押しすることで、中小企業等が企業規模の拡大・付加価値向上を通じた生産性向上を図り、賃上げにつなげていくことを目的とします。
今回、新事業進出補助金の要件等を中心にしつつ、そのポイントについて担当者にお話をうかがいました。

新事業への前向きな挑戦を支援する「新事業進出補助金」
新事業進出補助金は、中小企業等がこれまでの事業と異なる新しい事業に挑戦することを支援する補助金です。
補助上限額は従業員数によって変わり、最大2,500万円~7,000万円、下限はいずれも750万円となっています。さらに「大幅賃上げ特例」を適用することで、補助上限が3,000万円~9,000万円に引き上げられます。
補助対象経費も幅広く、新事業進出に必要な「建物費(建設・改修等)」も対象となっています。
本補助金の申請要件には、新事業進出要件、付加価値額要件、賃上げ要件などがあります。
これらの要件は、「新事業進出」「高付加価値」「賃上げ」という本補助金の政策目標に基づいて設定されたものです。
■新事業進出補助金の概要
項目 | 内容 | |
---|---|---|
補助上限額 |
従業員数20人以下:750万円~2,500万円(3,000万円) 従業員数21~50人:750万円~4,000万円(5,000万円) 従業員数51~100人:750万円~5,500万円(7,000万円) 従業員数101人以上:750万円~7,000万円(9,000万円) ※大幅賃上げ特例の適用による補助上限額の引上げを受ける事業者の場合、括弧内の補助上限額を適用 |
|
補助率 | 1/2 | |
全ての事業者が対象の要件 | 新事業進出要件 | 製品等の新規性・市場の新規性・新規事業売上高(新事業進出指針参照) |
付加価値額要件 | 付加価値額の年平均成長率が+4.0%以上 | |
賃上げ要件 | 1人あたり給与支給総額の年平均成長率が事業実施都道府県における最賃の直近5年間の年平均成長率以上、または、給与支給総額の年平均成長率が+2.5%以上 | |
事業所内最賃 水準要件 |
事業所内最低賃金が地域別最低賃金の+30円以上水準 | |
ワークライフ バランス要件 |
次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画の公表 | |
該当する事業者のみ対象の要件 | 金融機関要件 | 資金提供元の金融機関等から事業計画の確認を受けていること |
賃上げ特例要件 | 補助事業実施期間内に、給与支給総額を年平均+6.0%以上、かつ事業場内最低賃金を年額+50円以上 |
公募回等によって変更となる場合があります。詳細については必ず最新の公募要領等でご確認ください。
「新事業進出」に関する3つの要件
新事業進出要件は、本補助金の前提条件ともいえる要件です。この要件を満たすためには、新事業進出指針で示された以下の3つの要件をすべて満たした事業計画を策定する必要があります。
新事業進出要件 | 内容 |
---|---|
製品等の新規性 | 新たに製造等する製品等が新規性を有するものであること |
市場の新規性 | 新たに製造等する製品等の属する市場が新たな市場(既存事業とは異なる顧客層)であること |
新市場売上高 | 新たな製品等の売上高(又は付加価値額)が、応募申請時の総売上高の10%(又は総付加価値額の15%)以上となること |
- ●製品等の新規性
- 「製品等の新規性」とは、事業者が過去に製造・提供したことのない製品やサービスであることを指します。ここで求められるのは、あくまで事業者にとっての新規性であり、世の中全体における新規性(たとえば「日本初」「世界初」など)を意味するものではありません。なお、容易な改変や単なる組み合わせによる新商品・サービスは、評価が低くなる可能性があります。
- ●市場の新規性
- 「市場の新規性」とは、新たに展開する製品・サービスが、既存事業とは異なるニーズや属性(例:法人/個人、業種、行動特性など)を持つ顧客層に向けて提供されることです。
たとえば、アイスクリーム店が新メニューとしてかき氷を販売する場合、提供する商品は異なりますが、顧客が同じ属性(飲食客)であるため、市場の新規性要件を満たさないと考えられます。
- ●新事業売上高
- 「新事業売上高」では、補助対象となる新規事業の売上高が総売上高の10%以上、または付加価値額が総付加価値額の15%以上となる事業計画(収支計画表)を策定することが要件となっています。事業計画では、収支計画表の算出根拠と達成のための具体的な取組について記載します。
「高付加価値」と「賃上げ」に関する要件
新事業進出補助金には、政策目標から「高付加価値」と「賃上げ」に関わる要件が設定されています。
- ●付加価値額要件
- 付加価値額要件では、付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)を年率4%以上増加させることが求められます。
この基準は他の補助金制度と比べても高めに設定されていますが、これは本補助金の目的に「新市場・高付加価値事業への進出を後押しする」があり、付加価値向上を通じた生産性向上を図ることを目的としているためです。
- ●賃上げ要件
-
賃上げ要件は、以下のいずれかの基準を満たすことが必要です。
- ・1人あたりの給与支給総額の年平均成長率が、都道府県別最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上
- ・給与支給総額全体の年平均成長率が+2.5%以上
どちらか一方を達成すれば要件は満たされますが、未達成の場合は補助金の返還が必要となります。
- ●事業所内最低賃金水準要件
- この要件では、事業所内の最低賃金が、地域別最低賃金より30円以上高い水準であることが求められます。未達成の場合には、補助金の返還義務が発生します。
- ●大幅賃上げ特例要件
-
大幅賃上げ特例要件は、補助上限額の引き上げ(上乗せ)のための要件です。補助事業実施期間内に、以下の両方の条件を達成する必要があります。
- ・給与支給総額の年平均成長率が+6.0%以上
- ・事業所内最低賃金の年額上昇が+50円以上
賃上げ要件とは異なり、2つの条件を同時に満たすことが必要です。未達成の場合には、補助金の返還義務が発生します。
審査項目「新市場性・高付加価値性」について
新事業進出補助金では、補助事業の「新市場性」「高付加価値性」が審査項目に設定されています。これに関連して、新事業進出要件の「製品等の新規性・市場の新規性」との違いについて、よく質問が寄せられます。以下に両者の違いを整理しました。
製品等の新規性(新事業進出要件) | 自社における新たな製品・サービス |
---|---|
市場の新規性(新事業進出要件) | 自社における新たな市場(既存事業とは異なる顧客層) |
新市場性(審査項目) | 社会にとって新規性を有する(普及度や認知度が低い)新たな製品・サービス |
高付加価値性(審査項目) | 一般的な付加価値や相場価格と比べた時の高付加価値(価格・機能等) |
新事業進出要件は自社が基準であるのに対して、新市場性は社会全体、高付加価値性は一般的な付加価値・相場価格が基準となっている点が異なります。審査においては、「新市場性」または「高付加価値性」のいずれかが認められれば、評価の対象となります。
新市場性・高付加価値性は申請要件ではなく審査項目ではありますが、いずれかであることが必要です。
新事業進出補助金の申請にあたって
新事業進出補助金の申請は、電子申請のみの受付となっており、申請にはGビズIDプライムアカウントが必要です。アカウントの取得には、申請から約2週間程度かかる場合がありますので、早めの準備をお願いします。
申請手続きは、本補助金専用の申請システムを通じて行います。事業再構築補助金等では事業計画書等をPDFやWord形式で提出していましたが、本補助金は事業計画書についてもWeb上の入力フォームに直接データを入力する方式となっています。

ただし、いきなりWebフォームに入力するのは大変なことから、入力フォームに対応したWord形式の入力様式をご用意しています。あらかじめ、Word形式の様式を使って事業計画等を作成し、完成後にコピー&ペーストで申請システムに転記する方法をおすすめします。
審査は原則として書面で行いますが、必要に応じてオンラインによる口頭審査を行う場合もあります。
なお、本補助金では「事前着手」が禁止されています。交付決定前に契約や発注を行うことはできませんのでご注意ください。また補助事業の実施期間は交付決定日から14か月以内(採択発表日から16か月以内)となっており、採択後も迅速な交付申請・手続きをお願いします。
新事業進出補助金は、新たな事業への前向きな挑戦を支援する補助金です。ぜひご活用いただき、事業の成長拡大・収益力向上を図り、従業員の賃上げにつなげてください。
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