中小企業庁担当者に聞く「IT導入補助金2025」
政府の「中小企業生産性革命推進事業」では、中小企業の生産性向上を目的に、5つの補助金制度が設けられています。その一つが「IT導入補助金」です。
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等の労働生産性向上を目的として、デジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けたITツールの導入を支援する制度です。2017年にスタートし、毎年内容が見直されてきました。IT導入補助金2025(令和6年度補正)でも、導入関連費としてITツール導入後の「活用支援」が対象経費になるなど、いくつかの改正点があります。
今回は、IT導入補助金2025のポイントについて、中小企業庁の担当者にお話をうかがいました。

IT導入補助金2025の主な変更点
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者等のデジタル化やDXに向けたITツールの導入を支援する制度です。補助金の対象となるITツールはIT導入支援事業者(ITベンダー等)が事前に事務局の審査を受けて登録されたものに限られます。
2025年度のIT導入補助金には、以下の4つの枠があります。
- ●通常枠
- 業務効率化やDX推進を目的としたITツールの導入を支援します。IT導入補助金の中で最も標準的で一般的な枠組みです。
- ●複数社連携IT導入枠
- 複数の中小企業・小規模事業者が連携して、ITツール等を導入する際に利用できる枠です。商店街や協同組合などが会計や顧客管理などの共用システムを導入する場合に活用できます。
- ●インボイス枠
-
- ・インボイス対応類型
会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフトなど、インボイス制度に対応したITツールの導入を支援します。これらのITツールの導入に必要なハードウェア(PC、タブレット、レジ、券売機など)も補助対象です。
- ・電子取引類型
取引先(フリーランスや小規模事業者など)にも同一のITツールのアカウントを発行することで、電子的なインボイス取引を促進することを目的としています。大企業も申請可能です。
- ●セキュリティ対策推進枠
- 情報処理推進機構(IPA)の「サイバーセキュリティお助け隊」に登録されたサービスの導入を支援するものです。
IT導入補助金2025の概要(類型・対象経費・補助上限・補助率の一覧表)
※赤字は令和6年度補正予算での拡充点

IT導入補助金2025では、以下の三つの大きな変更が加えられました。
一つ目は、通常枠・複数社連携IT導入枠・インボイス枠(インボイス対応類型)において、ITツール導入後の「活用支援」の費用も補助対象となったことです。従来は、導入時の支援(保守運用、マニュアル作成など)に限定されていましたが、今回の改正により、ITツールを使いこなすための導入後のコンサルティング費用なども対象となりました。これは、ツールの導入だけでは十分な効果が得られないという課題に対応するための措置です。
二つ目は、最低賃金近傍事業者(地域別最低賃金に近い水準で従業員を雇用している事業者)は、通常枠の補助率が2/3に引き上げられたことです。これは、急速な賃上げ政策に対応することが難しい事業者のITツール導入を後押しすることで生産性の向上を図り、賃上げにつなげることを目的としています。
三つ目は、セキュリティ対策支援の強化です。ウイルス感染、不正アクセス、情報流出といったセキュリティリスクが高まっている現状に対応するため、「サイバーセキュリティお助け隊サービス」の導入費用(2年間)の補助上限額を150万円に引き上げるとともに、小規模事業者は補助率を2/3に引き上げました。
なお、これらの内容は今後変更される可能性があります。申請にあたっては、必ず最新の公募要領等をご確認ください。
デジタル化支援ポータルサイト「デジWITH」とは
IT導入補助金の対象となるITツールは、IT導入支援事業者(ITベンダー等)が事前に登録したものに限られます。また申請にあたっては、IT導入支援事業者のサポートを受けながら進める必要があります。
登録されているITツールやIT導入支援事業者は、「ITツール・IT導入支援事業者検索」ページから、ツールの機能(プロセス)、対応業種、事業者の所在地などを条件に検索することができます。
しかしながら、「自社の課題やニーズに合ったITツールがどれなのか」を判断するのは、デジタル化やDXに不慣れな事業者にとっては容易ではありません。そこでおすすめしたいのが、中小企業・小規模事業者向けのデジタル化支援ポータルサイト「デジWITH」の活用です。
ここでは、「デジWITH」の主な機能である「IT戦略ナビwith」「ここからアプリ」「IT経営サポートセンター」について紹介します。
●自社のデジタル化状況を把握する「IT戦略ナビwith」
IT戦略ナビwithは、自社のデジタル化の現状を把握し、課題を明確にするためのツールです。簡単なアンケート形式の質問に答えるだけで、自社の経営課題や業務課題を整理し、それに基づいた具体的なIT活用策を「IT戦略マップ」という一枚の図にまとめて「見える化」することができます。
なおIT導入補助金2025では、この「IT戦略マップ」の作成が補助金の採択率を高める「加点」の対象となっています。
●目的に応じたITツールと導入事例を紹介「ここからアプリ」
ここからアプリでは、業種や目的別にITツール(アプリ)を検索することができます。また、ITツールの導入事例も掲載されており、ツールの導入背景、得られた効果、導入時の工夫などを知ることができます。
他社の成功事例を参考にすることで、自社に最適なITツールを選定する際のヒントになります。
※「ここからアプリ」で紹介されているアプリが必ずしもIT導入補助金の対象ツールであるとは限りませんのでご注意ください。
●ITの専門家にオンライン相談「IT経営サポートセンター」
IT経営サポートセンターは、「デジタル化の進め方がわからない」「適切なITツールを選びたい」「ITツールをより効果的に活用したい」といった悩みを持つ事業者のために、実務経験豊富なITの専門家がオンラインで相談に応じる無料の支援サービスです。1回60分のオンライン相談を、無料で何度でも利用できます。相談の予約はWEBサイト上から可能です。
ITツール導入検討の手順について
事業者の課題やニーズに合わないITツールを導入してしまうと、期待した効果が得られず、結果的に投資が無駄になってしまう可能性もあります。そうした事態を避けるためにも、以下のような手順での導入検討をおすすめします。
ITツール導入検討の手順
まずは、自社の経営や業務にどのような課題があるのかを整理・把握します。
たとえば、「売上管理がアナログで非効率」「月次決算が遅く、経営判断の材料が不足している」「人手不足で事務処理が滞っている」などの課題を社内で共有し、洗い出すことが出発点です。
課題の整理のために、ぜひデジWITHの「IT戦略ナビwith」をご活用ください。

必要に応じて、商工会・商工会議所・よろず支援拠点などの公的支援機関や、デジWITHの「IT経営サポートセンター」の専門家に相談します。経営課題を挙げつつ、「業務のどの部分をデジタル化すべきか」「どのようなITツールが世の中にあるのか」「必要な機能は何か」などについて、アドバイスを受けることをおすすめします。

専門家のアドバイスやデジWITHの「ここからアプリ」の導入事例などを参考にしながら、業種・課題に対応したITツールを「ITツール・IT導入支援事業者検索」サイトで検索します。類似製品との価格・機能の違い、IT導入支援事業のサポート体制や実績などを比較して検討しましょう。

IT導入補助金の申請は、IT導入支援事業者のサポートを受けながら進めます。申請に必要な手続きだけでなく、導入後の活用に関する支援体制についてもしっかり確認してください。
以上の手順はあくまでも一例であり、様々なパターンがあるかと思います。重要なことは、「IT導入支援事業者(ITベンダー)任せにしない」という姿勢です。補助金の申請は、事業者の責任において行うものであり、補助対象は「事業者自らが必要性を認識したITツール」です。
ぜひとも、IT導入補助金の趣旨をご理解いただき、事業者の課題やニーズにあったITツールの導入を通じて、業務効率化やDXの推進を図り、生産性向上にお役立てください。
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