ビジネスモデルの再構築を支援「名古屋商工会議所」(ロカベン活用の現場)
ローカルベンチマーク(ロカベン)は、「企業の健康診断ツール」です。「財務情報」「非財務情報」の両面から、経営の健康状態を分析・診断することができます。
現在、事業者と支援者の「対話ツール」として、ロカベンの活用が進んでいます。商工会議所や商工会、金融機関、税理士・中小企業診断士などの「支援者」が、企業経営者・個人事業主などの「事業者」と対話しながら、ロカベンを作成することで、経営課題の整理や強みの発見につなげ、さまざまな形で経営支援に活かしています。
今回は、このロカベンを活用して、事業者のビジネスモデル再構築を支援している名古屋商工会議所の事例について、ご紹介します。
支援機関 |
名古屋商工会議所(愛知県名古屋市中区栄2丁目10-19) |
---|---|
支援企業 | 株式会社サン・リット企画 |
企業概要 | ノベルティ商品、他社プライベート商品の企画開発、自社ブランド「MAOMA」商品の販売など |
所在地 | 愛知県名古屋市中区千代田1-1-25第一中川ビル4F |
URL | https://www.sun-lit.co.jp/ |
「腹落ち」してもらえる支援のために、ロカベンを活用
名古屋商工会議所は、2018年頃から経営支援にロカベンを活用してきた。その目的について、内田欣也経営指導員はこう語る。
「特にコロナ禍の3年間は、補助金の採択だけの支援、専門家につなぐだけの支援がほとんどでした。しかし今後は、経営力そのものを改善して、根本的な収益力向上に結びつける支援が必要です。そのためのツールとして、ロカベンは非常に有効です(内田経営指導員)」
内田経営指導員が、経営力改善のために最重要と考えているのが、経営者の「腹落ち」である。経営者が心から納得しなければ、どんなに良い改善策、的確なアクションプランだとしても、経営改善の効果は期待できない。
この「腹落ち」のために、名古屋商工会議所は、①お金のブロックパズル、②ローカルベンチマーク、③経営デザインシートという3種類の「見える化ツール」を活用している。
①お金のブロックパズルは「収益構造(会社の儲けの仕組み)をシンプルに見える化」するツール、
②ロカベンは「業務の流れ等を見える化」するツール、
③経営デザインシートは「会社がめざす未来を見える化」するツールだ。
お金のブロックパズルで、経営者が自社の儲けの仕組みを理解し、ロカベンで業務の流れや課題・強みを把握し、経営デザインシートで会社の未来像を明確にすることで、「経営者が主体的に経営改善に取り組むことが可能になる」と内田経営指導員。
同会議所では、このような考え方から、3種類の「見える化ツール」の普及・活用のためのセミナーやワークショップ等の開催にも積極的に取り組んでいる。
▲お金のブロックパズルとローカルベンチマークによる経営改善とその事例(講師:和仁達也氏)
▲ビジネスモデル再構築戦略策定セミナー
(講師:藤井健太郎氏)
▲明日から出来るビジネスモデル再構築戦略策定ワークショップ(講師:藤井健太郎氏)
ロカベンで、業務の流れ、課題・強み等を「見える化」
同会議所のロカベンを活用した先行事例の一つが、株式会社サン・リット企画のビジネスモデル構築支援である。
同社は、ノベルティグッズや他社プライベート商品の企画開発を行い、中国の協力工場で生産し、納品するというビジネスモデルで着実な成長を遂げてきた。
しかし近年、現地の人件費高騰や円安の進展で、生産コストは年々増加。
さらに、企業の広告費の抑制によりノベルティ商品の市場は縮小、他社プライベート商品についてもOEM/ODM市場の競争激化で売上が伸び悩んでいた。同社の岡田利哉社長は当時を振り返る。
「売上の減少と利益率の低下が続いており、このままでは近い将来、経営が行きづまると感じていました。会社が生き残るには、新しい事業、新しいビジネスモデルが必要でした(岡田社長)」
2019年、同社は自社ブランドの立上げを柱とした「経営革新計画」を策定。名古屋商工会議所は、よろず支援拠点とともに計画作成をサポートした。
「計画をより実効力のあるものにするために、社長にロカベンの作成を提案し、業務の流れ、強み・課題を整理しました(内田経営指導員)」
ロカベンでは、「業務の流れ」をステップ(段階)で分けて見える化し、ステップごとに「差別化ポイント」を抽出していく。同社は、業務を①受注、②企画、③提案・見積もり、④試作、⑤量産・検品という5つのステップに分けた。
「業務のステップごとに強みや課題を見つけることが、ロカベンの最大の活用ポイントではないでしょうか。業務の流れのなかで、OEM/ODM生産で培った企画提案力、中国協力工場とのネットワーク、担当デザイナー制によるワンストップ対応などの強みを整理することができました(内田経営指導員)」
同社の強みとしては、企画提案力のある担当デザイナーが受注から納品まで一括対応すること、そのため顧客満足度が高い商品を短納期で提供できること、25年以上前から築いてきた中国協力工場とのネットワークがあることなどである。この差別化ポイント(強み)を、どのような形で、新事業・自社ブランド開発に活かしていくかについて対話しながら、アクションプランを考えていった。
「実はいままで、『業務の流れ』をあまり意識したことはありませんでした。担当デザイナーによる一括管理は当社の強みですが、業務が属人的になりやすいという欠点でもあります。このような課題に気づくことができ、対応策を考えることができたのも、ロカベンのおかげです(岡田社長)」
また「商流把握」のフローでは、同社が60社以上の幅広い業種の取引先があることに改めて気づくことができた。それは自社ブランド事業を展開するうえで、大きな強みとなった。
自社ブランドの強化をめざして、再びロカベンを作成
2020年、同社は自社ブランド「MAOMA」を立ち上げた。ブランドコンセプトは「表情豊かな日常生活」の提供。第一弾として赤いネコのぬいぐるみ「だるまニャン」の販売をスタートした。
だるまニャンは、認知症専門医の協力で開発した「疑似骨格(トイスケルトン)」を組み入れたぬいぐるみである。
曲げやすいように手足が長く作られているのが特徴だ。脳機能の低下で日常生活に支障ある方、情緒が不安定になったりする方が、だるまニャンをひねったり、曲げたりして自由にポーズをつくることで、指先のトレーニングをしながら笑顔になることを狙った。
2021年には、第二弾として筋肉・骨の専門家と共同開発した枕「グインネック」を開発販売した。肩こりや頭痛の原因にもなる「ストレートネック」対策のための商品である。
自社ブランド商品「MAOMA」を通じて、ネット直販だけでなく、福祉施設、福祉用品卸、大手GMSなどの販売チャネルを開拓することができ、「売上拡大、利益率の向上につながった」と言う。
そしていま、岡田社長はもう一度ロカベンを作成しようと考えている。自社ブランド事業を立ち上げたことで、新たな課題が見えてきたからだ。
「新型コロナを経て、4年前とは事業環境が大きく変わりました。新たにロカベンを作成して、事業ビジョンを再構築していこう考えています(岡田社長)」
現時点の課題・強みをもう一度整理して新たな事業戦略を策定し、自社ブランド商品のラインナップの拡大につなげていきたいと語る。
「ロカベンは、経営者が本質的な課題の発見に非常に役立つツールです。と同時に、私は支援者の成長にもつながるツールだと考えています。ロカベンを使えば、経営支援に必要な情報を効率的にヒアリングできますし、経営支援についての基本的な考え方、支援者に必要な視点も身につきます(内田経営指導員)」
そして、ロカベンの情報を経営者と支援者が共有することで、「経営者に腹落ちしてもらう支援ができる」のだと、内田経営指導員は言う。
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