昔ながらの和菓子店が「大判焼の製造販売」で、顧客開拓・客単価アップ【支援機関とともに 商工会議所編】
持続化補助金(小規模企業者持続化補助金)は、小規模企業や個人事業者の「販路開拓」等の取り組みを支援する補助金です。
補助金の申請にあたっては、事業者が事業計画(計画計画)を策定する必要があります。この事業計画等の申請書に基づいて審査し、採択された(選ばれた)事業者に補助金が支給されます。
持続化補助金の申請窓口は、事業者の管轄の商工会議所・商工会です。補助金の申請は商工会議所・商工会の会員でなくても受け付けていますが、経営相談等の一部サービスについては会員のみが対象になる場合があります。
今回の「支援機関とともに」では地域の昔ながらの和菓子店が、商工会議所の支援を受けながら、持続化補助金を活用して、大判焼の店頭製造販売を開始し、若年層の顧客開拓と客単価の向上を図った事例について、実際の事業計画書を見せていただきながら、作成のポイントなどについてうかがいました。
申請補助金 |
第9回小規模事業者持続化補助金「賃金引上げ枠」 ※現在の事業再構築補助金とは要件等が異なる場合があります。 |
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事業計画名 |
卸売販売の強化と「大判焼き・団子」の製造小売事業の実施 |
支援機関 |
浜松商工会議所(静岡県浜松市中区東伊場2丁目7-1) |
支援企業 | 神村製菓舗 |
企業概要 | 「金つば」「草餅」等の和菓子の製造販売 |
所在地 | 静岡県浜松市中区富塚町1880 |
URL | https://www.instagram.com/3daime_kamimura/ |
「和菓子離れ」「コンビニ出店」等により、厳しい経済環境が続く
神村製菓舗は、浜松市の郊外にある和菓子店である。昭和39年に創業し、金つば・草餅・桜餅などの生菓子が名物となり、長年にわたり地域の人たちから愛されてきた。近年は創業者が高齢になったことから、長男である神村佳孝氏(以下、神村店主)が実質的な代表者として、経営を任されている。
和菓子店の市場環境は、厳しい状況が続いている。主な理由の一つは、若者を中心とした「和菓子離れ」である。同店の顧客も昔からの馴染みのシニア層が中心で、20代~40代の来店は少ない。もう一つのは「コンビニの存在」だ。近年、コンビニ各社は競うようにスイーツ商品の開発販売に力を入れており、和菓子店の大きな脅威になっている。
同店についても、コンビニが急速に店舗数を拡大した90年代から売上が減少傾向にある。神村店主は、JAのファーマーズマーケット(小売店)の卸販売など、店頭以外の販路開拓に力を入れてきたが、現在の年商は最盛期の半分程度にとどまっている。この間、同業の和菓子店は次々と閉店し、「近隣で唯一の和菓子店となってしまった」と神村店主は言う。
このように経営環境が厳しさを増すなかで、平成29年、神村店主は経営者の知人から薦められて、浜松商工会議所に入会。商工会議所の事業承継や経営革新などのセミナーに出席したり、経営支援員に経営相談したりしながら、経営改善に取り組んできた。その一つとして、令和3年にはイートイン事業としてお好み焼店を店舗に併設、和菓子以外の商品により若年層の顧客獲得を図っている。
「何かしなくては、売上が先細りになってしまうという危機感がありました。ちょうどその頃に、息子から『後を継ぎたい』との話があり、新たな事業の柱として『大判焼の店頭製造販売』を計画し、商工会議所に相談しました(神村店主)」
「和菓子業界の厳しい状況は、以前から聞いていました。神村さんから相談を受けて、事業化のための店内改装・設備等の費用について、持続化補助金の活用を提案しました(松山経営支援員)」
持続化補助金を活用するためには、事業計画書(経営計画)の策定が条件になる。神村店主は、松山経営支援員のサポートを受けながら、事業計画の作成を進めることにした。
経営支援員のアドバイスを受けながら、事業計画書を作成
神村店主が、新たな事業の柱として「大判焼の店頭製造販売」を選んだのには、いくつかの理由がある。①近隣に大判焼を販売する店舗がないこと、②集客の課題である20代~40代の来店が期待できること、③和菓子との「ついで買い」により客単価の増加が期待できること、④大判焼の材料(餡子など)が和菓子と共通しているため効率が良いこと、⑤自店で製造している評判のいい餡子を使うことで、他店の大判焼との差別化が図れること、などだ。
大判焼事業の実現性には十分に自信を持っていたが、それを説得力のある事業計画として書面に表現していくことは、また別問題である。神村店主は松山経営支援員のアドバイスを受けながら、まず自店の現状分析を行った。そのなかで、和菓子の市場動向を調べるため、総務省統計局の家計調査をもとに、まんじゅう・ようかんの1世帯あたりの年間支出金額の推移をグラフにしてみた。
「以前から、世の中の『和菓子の離れ』については肌で感じていました。しかし数字をグラフ化したことで、改めて市場環境が厳しいことを痛感しました。このような厳しい環境を踏まえた戦略について検討するために、松山さんと一緒に自店の強み・弱みを整理しました(神村店主)」
強みは「創業60年以上の歴史」・「固定客からの評価」・「後継者の存在」、弱みは「資本力の不足」・「業務効率化の遅れ」など。機会は「テイクアウト需要の伸長」、脅威として「コンビニとの競争激化」「若年層の和菓子離れ」などを挙げた。このSWOT分析から「強み×機会」として、「大判焼の店頭での製造販売による、新規顧客の開拓」を戦略の柱とした。
「神村製菓舗の強みの根拠資料として、『googleの口コミ評価』が高かったので、事業計画書に記載するようにアドバイスしました(松山経営支援員)」
顧客からの口コミ評価コメント等は、自店アンケートに代わる資料として、持続化補助金の事業計画書に使うこともよくあると、松山経営支援員は言う。
将来の事業承継を見据えた「収支計画」を記載
今回の事業計画の作成にあたって、松山経営支援員が最も重視したのが、「目標の数値化」だと言う。
「事業計画を作成している時に、店主の息子さんに事業承継の意向があることを知りました。店を引き継ぐためには、厳しい和菓子業界にあっても収益を出せる体制をつくらなくてはなりません(松山経営支援員)」
そこで事業計画に「今後の3か年の収支計画」を記載。その根拠となる各年度の平日・休日の売上目標を設定した。
「いままで、当店は経営計画のなかで数値目標を立てたことはありませんでした。悪く言えば『どんぶり勘定』だったかもしれません。今回の事業計画書作成を通じて、当店の強み・弱みを客観的に分析し、具体的な数値目標設定しました。将来に向けての一つの道筋ができた気がします(神村店主)」
令和5年4月、店頭での大判焼の製造・販売を開始。この大判焼事業については、将来の事業承継を視野に入れながら店主の長男が責任をもって運営することとした。販売促進に、Instagramを活用するなど、いままでにない取り組みをしながら、若年層・女性層を中心に新規の獲得を図っている。
「まだ始まったばかりですが、いままであまり来店しなかった20代~40代のお客様が増えています。また既存のお客様についても、大判焼とのついで買いで客単価が向上しています。(神村店主)」
同店では、保存料を使わずに餡子から自店でつくる「上生和菓子」にこだわっている。コンビニで和菓子を買う顧客も一度食べてもらえれば、その違いが分かってもらえるはずだと、神村店主。大判焼をそのきっかけにしたいと言う。
「昔ながらの商店のなかには、経営に苦労している事業者もたくさんいます。経営支援員として、そのような事業者と向き合い、寄り添いながら支援していきたいと思います(松山経営支援員)」
いま浜松商工会議所では、事業者との対話を通じて、事業者が課題把握し主体的に解決に取り組む、課題設定型の伴走支援のための様々な取り組みを進めているとのこと。同店の事例は、典型例の一つになるのではないかと、松山経営支援員は語る。
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